遺産分割調停の流れ
1 遺産分割調停とはどのような手続きか
遺産分割調停は、家庭裁判所で行われる、遺産分割についての相続人間の意見調整を試みる手続きになります。
遺産分割では、最初に、話し合いによる合意の試みがなされます。
しかし、他の相続人と意見が対立するなどして遺産分割についての合意が困難である場合は、話し合いによる解決が望めないことがあります。
また、連絡をとることができない相続人がいる場合にも、話し合いによる解決が望めないこととなります。
このような場合、遺産分割を完了するためには、家庭裁判所での公的な手続きを利用するより他ないこととなります。
家庭裁判所での手続きには、調停と審判の2種類があります。
調停は、家庭裁判所の調停委員が関与し、相続人間の意見調整を図る手続きであり、審判は、相続人の主張を踏まえて、裁判官が遺産分割の仕方を決定する手続きです。
ほとんどの場合は、最初に、調停による解決が試みられることとなります。
参考リンク:裁判所・遺産分割調停
調停の流れは、おおむね以下のとおりとなります。
① 当事者の確認
② 相続財産の範囲の確認
③ 相続人の意見の確認、意見調整
④ 調停手続の終了
①から④のそれぞれについて、より具体的な流れを説明したいと思います。
2 当事者の確認
遺産分割の手続きには、すべての相続人が参加しなければならず、一部の相続人が参加せずに手続きを進めた場合は、無効になってしまいます。
このため、当事者の確認は、最初にするべき作業となります。
この際、以下の点が問題となります。
① 相続人が誰であるか
最初に問題となるのは、相続人が誰であるかということです。
相続人が誰であるかの確認は、戸籍をもってなされることとなります。
調停申立てにあたり、相続人を特定するための戸籍の提出が求められ、家庭裁判所の側で、戸籍一式のチェックが行なわれます。
また、調停の最初の期日においても、誰が相続人であるか確認がなされます。
② 相続人が手続きに参加できるか
相続人が誰であるかの他に、相続人が手続きに参加できるかどうかも問題になります。
例えば、相続人の中に行方不明者がいる場合には、手続きに参加することができず、調停の手続きも、引いては審判の手続きも進めることができません。
このような場合には、不在者財産管理人を選任し、不在者財産管理人を代わりの当事者として手続きを進めるかどうかを検討する必要があります。
参考リンク:裁判所・不在者財産管理人選任
他にも、相続人の中に、認知症等のため判断能力が著しく低下した人がいる場合にも、有効な意思表示ができなければ、手続きに参加することができず、調停を進めることができないこととなってしまいます。
このような場合には、成年後見人を選任し、成年後見人を代わりの当事者として手続きを進めるかどうかを検討する必要があります。
参考リンク:厚生労働省・成年後見人等の選任と役割
他方、相続分譲渡や相続分放棄を行い、自身の相続権を主張しないことを明確にした相続人については、遺産分割の手続きに参加する意味がなくなりますので、遺産分割の当事者から除外されることがあります。
3 相続財産の範囲の確認
意見調整を行う前提として、相続財産の範囲を確認する必要があります。
調停申立てを行った人は、申立書の遺産目録で、把握している相続財産を一通り記載します。
これに加えて、他の相続人が把握している財産があれば、遺産目録への追加がなされることとなります。
それによって、新たな不動産や預貯金、有価証券の存在が明らかになることがあります。
また、被相続人の預貯金口座から出金された現金が相続財産になるかどうかが争われたり、被相続人以外の名義になっている財産について、実質的には被相続人の財産であるとの主張がなされたりすることもあります。
相続財産の範囲について、相続人間で見解の相違がある場合には、相続財産の範囲について相続人が合意をすることができるかどうか、意見調整が図られることがあります。
意見調整が困難である場合は、一旦、調停が終了し、訴訟で相続財産の範囲が争われることもあります。
4 相続人の意見の確認、意見調整
次に、各相続人の意見を確認します。
問題になりやすい点は、以下のとおりです。
① 誰がどの財産を取得するか
遺産分割では、最終的には、誰がどの財産を取得するかを決めることとなります。
複数の相続人が同じ財産を取得することを希望している場合には、どちらがその財産を取得するか、意見調整を行う必要があります。
② 相続財産の評価額をいくらとするか
現金や預貯金については、基本的には、額面額がそのまま評価額になります。
上場株式や投資信託、公社債についても、基準時をいつにするかという問題はありますが、相場を確認して評価額を算定することは比較的容易です。
これに対し、不動産や非上場株式については、どのように評価を行うべきかが問題となりやすいです。
こうした財産の評価方法について、相続人の意見を確認し、意見調整を行う必要があります。
③ 特別受益、寄与分の有無、金額
相続人の中に多額の贈与等を受けた人がいる場合には、その相続人に特別受益が存在し、相続分が減額調整されることがあります。
また、相続人の中に被相続人の財産形成等に寄与した人がいる場合には、その相続人に寄与分が存在し、相続分が増額調整されることがあります。
こうした特別受益、寄与分の有無、金額についても、相続人間の意見調整がなされることとなります。
以上のようなポイントを踏まえて、相続人同士の意見が対立している部分を確認し、いずれかの意見を採用したり、双方の意見の中間を取ったりして、意見調整が図られることとなります。
5 調停手続きの終了
当事者となっている相続人の意見調整に成功し、遺産分割方法についての合意が可能になった場合には、合意内容を確認し、調停成立となります。
合意内容については、調停調書という形で文書化されます。
調停調書を用いることにより、その後の不動産の名義変更や預貯金の払戻し、有価証券の名義変更等の手続きを進めることができるようになります。
調停が成立する日には、家庭裁判所の調停にすべての当事者または代理人が参加し、合意内容を確認する必要があります。
ただ、遠隔地に住んでいる等の事情により、当事者の一部が調停に参加することができない場合があります。
このような場合には、調停に代わる審判という手続きが用いられます。
調停に代わる審判では、家庭裁判所が、当事者の意見を踏まえて、遺産分割方法についての決定を行います。
家庭裁判所の審判書が届いてから2週間以内に、いずれの当事者からも異議がなされなければ、調停に代わる審判が正式に確定し、遺産分割が成立することとなります。
これに対して、当事者間の意見調整が望めず、合意に至ることができない場合には調停不調となり、審判の手続きに移行することとなります。
審判では、当事者が法律的な主張を行い、裁判官が法律論に基づいて遺産分割方法を決定することとなります。