葬儀費用の問題1

相続人間で紛争が表面化している場合には,葬儀費用をだれが負担するかが問題となることが,しばしばあります。

たとえば,遺産分割で争いが生じている場合に,葬儀費用を負担した相続人が,葬儀費用を負担していない相続人に対し,プラスの遺産から葬儀費用を差し引くべきであるという主張がされることがあります。
遺留分減殺請求でも,このような主張が行われることがあります。

他には,相続人の一部が,被相続人の存命の間に,被相続人の口座から多額の預金を出金したことが判明し,他の相続人から預金の返還を求められることがあります。
このような場合に,出金を行った相続人から,出金分の一部は葬儀費用に充てられたのだから,その分は返還する必要がないという主張が行われることがあります。

上記の主張は,いずれも,葬儀費用は相続人で分担されるべきであるということを前提とするものです。
このような主張に対しては,葬儀費用は,葬儀主宰者が負担すべきであるから,相続人が分担すべきであるという主張には応じられないという主張がなされることがあります。
法的には,どちらの主張が妥当なのでしょうか。

この点について,過去の裁判例には,葬儀費用は葬儀主宰者が負担すべきであるとしたものがあります。
ただ,葬儀費用を分担するべきであるとの前提のもとに結論を出した裁判例もあります。
このため,どちらかというと,葬儀主宰者が負担とされる傾向にあるという表現にとどめておいた方が良いように思います。

このように,葬儀費用の扱いにつきましては,即座に結論を出しにくい部分があります。
最終的には,弁護士として案件に携わる以上,どちらの側に立つかによって,依って立つ見解が変わる部分もあると言わざるを得ないこともあります。

お墓の「相続」

お墓が遺産になるかどうかという話が出ることがあります。
このような場合,法的には,原則として,お墓は相続の対象にはならないという話をすることになります。

お墓というと,まず,墓石を思い浮かべることが多いと思います。
墓石は,法律上,祭祀財産とされています。
祭祀財産は,祭祀主宰者に引き継がれることとなっています。
このため,墓石は,遺産とは別の理屈で引き継がれることとなります。

祭祀主宰者は,第一に,被相続人の意思,第二に,被相続人の意思が明らかではない場合は,慣習,第三に,慣習が明らかではない場合は,家庭裁判所の審判により決まることとなっています。
遺産のように,遺言がない場合は,相続人間の協議等で決めるわけではないのです。
このことは,私法上の大原則を定めた民法において,明確に規定されています。

以上のような規定になっていますので,祭祀財産の引継ぎは,通常の遺産分割とは異なる部分が色々とあります。
たとえば,被相続人の意思については,遺言のように書面で残っている必要はなく,口頭で示しても構わないという違いがあります。
他にも,慣習や審判により,相続人ではない人(内縁の配偶者等)が祭祀主宰者になる場合もあり得ます。

墓石以外にも,墓地利用権についても,祭祀主宰者に引き継がれることとなります。
お墓を設ける際,お寺や公設墓地との間で,墓地利用権が設定されます。
このような権利についても,祭祀財産として,祭祀主宰者に引き継がれることとなるのです。

このようなお墓の引継ぎの問題は,弁護士であっても,正面から事件として担当することはほとんどありません(相談を受けることは,時たまあります)。
法的には上記の通りですが,実際には,相続人の話し合いの結果で決まることが多く,話し合いで決まった場合には法律問題が表面に出てきません。
ただ,万一,法律問題が表面に出てしまった場合には,民法の大原則に立ち返って結論を導き出す必要があります。

民法改正

弁護士会での民法改正の勉強会に参加してきました。
今回のテーマは,保証についてでした。

保証制度につきましては,今回の民法改正で大きな変更が行われることとなります。
特に,事業により生じた債務を保証する場合は,原則,保証契約を締結するに際し,公正証書の作成が義務付けられることとなったことは,大きな変更点であると言えます。
ただし,保証人が会社の代表者である場合等につきましては,上記の例外として,公正証書を作成する必要はないとされています。

他にも,主債務者が期限の利益を失った場合は,保証人は,債権者に対し,債務の額等についての情報の開示を請求することができるとの規定も設けられるようです。
主債務者が債務の返済を一定回数怠った場合には,債権者は,主債務者に対し,債務の残額を一括して請求することができるとされています。
このように,一括請求できる状態になることを,期限の利益を失ったと呼称します。
このような場合,主債務者が返済をしなければ,債権者は,保証人に対して請求を行うことができます。
裏返せば,保証人は,いつ何時,債権者から一括請求されるか分からない状態に陥るのです。
保証人であれば,当然,債務の残額等の情報を知りたいということになりますが,従前は,債権者は,保証人への情報開示に応じない場合がありました。
そこで,今回の民法改正で,上記の場合に,債権者は,保証人から情報開示の請求に応じなければならないとなったのです。

現時点では,民法改正がいつになるのか等,未定の部分も多いですが,徐々に,改正を見越しての情報収集を行う時期に差し掛かりつつあるようです。

静岡の裁判所

最近,静岡の裁判所(本庁)が建て替えを行ったそうです。
近隣では,岐阜県の裁判所(本庁)が2年前に建て替えを行っています。

裁判所も,建物の建築年数等次第で,建て替えが行われるようです。
岐阜県では,建て替えが行われている間は,仮設の庁舎が設けられ,そこで事務手続や裁判が行われていました。

他方,三重県では,裁判員裁判が導入されるに際し,本庁の棟を建て増ししました。
私自身,津の本庁の刑事事件を担当することはほとんどありませんが,時たま,建て増しした棟の法廷を利用することもあります。

戸籍の焼失2

戸籍が焼失している場合,戸籍を辿って相続関係を明らかにすることができず,どのようにして相続関係を明らかにするのかが問題になります。

このような場合,まず考えることは,親族からの情報収集です。
本人が親族関係を把握していない場合であっても,祖父母の兄弟姉妹等,古くからの出来事を把握されている方がいる場合,そのような方に親族関係を確認するということが考えられます。
そして,兄弟姉妹の子孫がいることが判明した場合は,その子孫の戸籍を取得することにより,焼失した直後の戸籍まで遡ることができます。
このようにすれば,焼失した戸籍自体を取得することはできませんが,焼失の直前の戸籍と直後の戸籍を集めることができます。
そして,直前の戸籍と直後の戸籍の繋がりについては,記載された事項(生年月日,続柄等)が一致するかどうかにより,確認することができます。

これに対し,親族からの情報収集によっても親族関係が判明しない場合は,悩ましい状況になります。
菩提寺において過去帳を保存している場合もありますので,地元を歩き回って過去帳を入手することができる場合は,結果的に親族関係を明らかにすることができるかもしれません。
ただ,このような作業を行うには,多大な労力を要しますし,必ずしも,過去帳によって親族関係が判明するとも限りません。

このような場合には,戸籍が焼失している以上,これ以上の親族関係の特定は困難であると割り切り,戸籍で辿ることができる限りにおいて,手続を進めることもあり得ます。
私自身,戸籍の消失がある場合に,戸籍で辿ることができた相続人を相手方として,遺産分割調停の手続を進めている例を見たことが何度かあります。
こうした調停の申立に対し,裁判所の側から,申立を行った弁護士等に対し,相続人の特定のため,過去帳等の調査を行うことを求めることもないようです。

ただ,厳密に言えば,相続人の一部を除外して行った遺産分割協議になりますので,法律上は,無効な遺産分割になります。
後日,戸籍によって辿ることができなかった相続人が現れ,遺産分割の無効を主張することもあり得るわけです。
実際には,このような相続人に遺産分割が行われたという情報が伝わることは稀だと思いますので,このような相続人が現れることはレアケースだと思いますが,実際にこのような相続人が現れた場合には,焼失後の戸籍と焼失前の戸籍との繋がりが証明できることも多いと思いますので,相続人の一部を除外して遺産分割を行ったことが容易に証明されるケースが多いと思います。
ですから,焼失した戸籍が関わる案件を進める場合には,新たに相続人が現れた場合には,遺産分割が無効になる可能性があることを念頭に置きつつ,手続を進める必要があるということになります。

戸籍の焼失1

親族関係を確認する場合,戸籍を辿る方法をとるのが一般的です。
裁判手続で親族関係を証明する場合にも,亡くなられた方の一生分の戸籍を取得することになります。

相続関係の戸籍を取得すると,役所から,しばしば,戸籍が焼失したため残っていませんと言われることがあります。
津市で昭和の初め頃の戸籍を取得する場合,焼失していると言われることがあるようです(たとえば,松阪市の案件でも,関係者が住所を移動しているため,他市町村の戸籍を取らなければならないことがしばしばあります)。
どうも,過去に,戦争中の火災(昭和20年7月の空襲が原因のようです)により,津市の本庁で保管していた戸籍が焼失してしまったことがあるようです。

このように,戸籍が戦災等により焼失した場合,役所は戸籍を再製することとなります。
焼失してしまった戸籍を,新たに作り直すことになるのです。
このような場合,焼失してしまった戸籍は,役所に残ってないわけですから,戸籍を再製するためには,焼失前の戸籍の内容がどのようなものであったのかについて,情報収集を行わなければならないこととなるのです。
親族関係についての情報を持っているのは,当の親族本人になりますので,役所は,親族関係について申出を行うよう求めることとなります。
そして,親族関係についての申出がなされれば,申出の内容を反映して,新たに戸籍を再製することができるのですが,申出がなされなかった部分については,戸籍を再製することができなくなってしまうのです。

津市でも,昭和22年頃に,親族関係についての申出を受けたものの,一定程度申出がなされなかった部分があり,このため,焼失した昭和の初め頃の戸籍が残っていない状態になっているのです。

このような理由から,戸籍を辿った結果,曾祖父母の代までさかのぼることができたものの,その兄弟姉妹の戸籍が途中から焼失してしており,曾祖父母の兄弟姉妹の子孫がいるのかどうかが把握できないということが,しばしばあります。

遺産分割協議後の紛争2

遺産分割協議には相続人全員が参加する必要がありますが,場合によっては,不可抗力により,相続人の一部を除いて遺産分割協議をしてしまうこともあります。
被相続人の子が相続開始後に認知を受けた場合がこれに当たります。

男女が結婚していない場合,法律上,母子関係は,出産により当然発生するとされていますが,父子関係は,基本的に,父から認知がされなければ,発生しないものとされています。
そして,父が存命の場合は,父から任意に認知することができますし,子から父に対し強制認知の請求を行うことも認められています。
他方,父が存命でない場合は,子は父に対して強制認知の請求をすることができませんので,検察官に対して認知の請求をすることとなります。
これが死後認知と呼ばれるものです。

このように,死後認知がなされた場合は,他の相続人から見ると,突然,相続人の人数が増えたとなる場合があります。
このような場合であっても,遺産分割をやり直さなければならないとなると,法的安定性が害されることとなると考えられています。
そこで,死後認知が行われた場合には,特別に,すでに行われた遺産分割は有効とされ,認知者された相続人は価額のみの支払を請求することができると定められています。

遺産分割協議後の紛争1

弁護士等の専門家が関与することなく遺産分割協議を行った場合,後々問題が生じてくることがあります。
たとえば,相続人の一部を除外して遺産分割協議を行ってしまうことがあります。

本来であれば,遺産分割協議には,相続人全員が参加しなければなりません。
相続人の一部が相続放棄を行った場合には,相続放棄を行った人は最初から相続人ではなかったものとされますので,相続放棄を行った人を除いて遺産分割協議を行うことになります。
これに対し,相続放棄を行った相続人がいない場合には,たとえ相続財産は一切いらないと考えている人がいたとしても,相続人全員の参加の下,遺産分割協議を行う必要があります(名義変更や払戻に必要な印鑑証明書についても,相続人全員の印鑑証明書が必要になります)。

そして,相続人が被相続人の子のみである場合は,相続人が誰であるかが分かりやすいですが,被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人に含まれる場合は,誰が相続人であるかが正確に把握できないこともあり,最初に相続人を正確に特定できなければ,後々大きな問題が生じてくることがあります。
ですから,相続人の特定に不安がある場合は,一度,相続関係を確認するため,戸籍を取得する必要があることになります。
戸籍につきましては,どのような場合であれ,被相続人の出生から死亡までの戸籍は必ず取得しなければなりませんので,多くの場合,現在戸籍だけでなく,過去の戸籍(改製原戸籍,除籍等を含む)も取得する必要があります。
こうした作業は,実際にやってみると大変ですが,後々問題が生じないようにするためには,必ずしなければならない作業であると言えます。

万一,相続人の一部を除外して遺産分割協議書を作成してしまった場合は,相続人全員の参加の下,再度,遺産分割協議をやり直す必要があります。

相続と賃貸借契約3

賃借人の相続人が存在する場合は,内縁の妻は,相続人が引き継いだ賃借権を援用することができます。

他方,賃借人の相続人が存在しない場合は,上記のようにはいかなくなります。
相続人が存在しない場合は,相続財産は最終的に国に帰属することになります。
賃借人の地位も相続財産の一種ですから,相続人が存在しなければ国に帰属するということになりそうです。

このように,相続人が存在しない場合は,判例によっても,内縁の妻の居住権は保障されないということになります。
このことは,生活の基盤を失う側にとっては,酷な結果を招きます。
そこで,このような場合に,内縁の妻の居住権を保護するため,立法による対応が行われることとなりました。

借地借家法は,次の場合に,同居人が建物賃借人の地位を引き継ぐことができるとしています。
同居人が賃借権を引き継ぐ要件は、次のとおりです。
  
① 居住の用に供する建物であること。
② 建物の賃借人が相続人なしに死亡したこと。
③ 同居者が賃借人と事実上の夫婦または養親子と同様の関係にあったこと。
  
これらの要件を満たす場合に,同居人は建物賃借人の地位そのものを引き継ぐことになります。
他方,同居人が賃借人の地位を承継することを望まない場合は,同居人は,相続人なしに死亡したことを知った時から1か月以内に,建物賃貸人に対し,賃借人の地位を承継しない旨の意思を表示する必要があります。

弁護士会等での相談を行うと,司法試験ではよく扱われるけれども,実際には,あまり出会うことのない法律問題について相談を受けることがあります。
このような場合には,六法を確認する等しつつ,過去の記憶をたどる必要があります。

相続と賃貸借契約2

賃借人の同居人であった内縁の妻を保護する理屈としては,次のようなものがあります。

建物賃借人の地位は,内縁の妻には引き継がれないですが,相続人には引き継がれることとなります。
この場合,判例は,内縁の妻は,相続人が引き継いだ借家権を援用し,建物の明渡しを拒むことができることがあるとしています(弁護士を目指して勉強する場合は,必ず学ぶことになる判例だと思います)。

注意が必要なのは,内縁の妻自身が借家権を有することになるのではなく,内縁の妻が相続人の借家権を援用することができるに過ぎないということです。
このため,相続人が賃借権を主張する場合は,内縁の妻は,建物を明け渡さざるを得なくなるのではないかという疑問が出てきます。
この点についても,判例は,相続人からの明渡請求が権利の濫用に当たるとして,内縁の妻が明渡しを拒むことができるとしました(この判例も,必ず学ぶ判例だと思います)。
このため,判例上は,相続人に引き継がれた借家権が存続する限り,内縁の妻は,建物に居住し続けることができるということになったのです。

ただし,あくまでも,内縁の妻は相続人の借家権を援用しているにすぎませんので,相続人が賃料支払義務を負うことになります。
そして,相続人が賃料を支払わず,賃貸借契約が債務不履行解除された場合には,内縁の妻は建物から退去しなければならなくなります。

このように,判例上の保護も,決して万全といえるものではありません。