相手方の住所不明

離婚等で,相手方から,当方の依頼者が暴力を振るったとの主張がされている場合で,当方から調停申立を行うことがあります。
この場合,相手方が支援措置を受けており,相手方の現在の住所地が分からないということがあります。
支援措置とは,地方自治体に同居期間中等にDV等があったことを申告することで,住民票等を非開示にする制度です。
住民票等を非開示にすることで,現在の住所が分からないようにし,今後,暴力等の被害を受ける可能性を避けることができます。
このような場合に,当方から調停申立を行う際に,相手方の住所が分からず,調停の手続等を進めることができないことがあります。

弁護士の場合は,職務上請求という手段を持っており,事件を進めるために必要がある場合は,住民票等を取得することができます。
ただ,支援措置がとられた場合は,職務上請求によっても,住民票等を取得することができないことが多いです。
一部,三重県外の自治体で,職務上請求に対して住民票等を開示した例もあるようですが,三重県内の自治体であれば,おおむね,住民票等を開示しないという対応になると思います。

当時,この先の手続をどのように進めるか戸惑った記憶がありますが,裁判所等と協議し,次のように進めることとなりました。
① 調停申立書に相手方住居所不明と記載して,調停申立を行う。
② 自治体に対して職務上請求を行うとともに,住民票等については,裁判所へ送付していただきたいとの上申書を送付する。
このように申請を行えば,自治体から裁判所に住民票が送付され,裁判所で相手方の住所を確認できる状態になります。
その上で,裁判所から,相手方に対し,確認できた住所に調停申立書が送付され,手続が進められることとなります。

この場合,裁判所から当方に住所が明らかにされることはありません。
ですから,主張書面等,調停で提出する書面につきましては,すべて裁判所に送付し,裁判所から相手方の住民票の住所に送付されることとなります。

登記簿上の住所4

第二の方法としては,
①  固定資産評価証明書に出てくる住所と,被相続人の住民票の住所が一致していること
② 相続人全員において,登記簿上の名義人と被相続人が同一人物であることを確認する内容の上申書(申述書等)を提出すること
をもって,同一性を証明する方法があるようです。

上申書には,相続人全員が実印で押印し,相続人全員の印鑑証明を添付する必要があります。
相続登記の場合,遺産分割協議書に添付する印鑑証明は古いものでも構わないと言われることもありますが,上申書に添付する印鑑証明につきましては,3か月以内に発行されたものでなければなりません。

相続人全員が不仲ではない場合は良いですが,相続人が対立関係にある場合は,上申書に実印を押印し,3か月以内の印鑑証明を提供してほしいと申し出ても,提供していただけない場合もあると思います。
相続人が三重県外に居住している等,遠方に散らばっている場合も,3か月のスパンで必要な書類を集めることに支障がある場合もあります。
ですから,交渉が成立し遺産分割協議書を作成する段階で,登記のために上申書に実印を押印してもらう必要があり,かつ,3か月以内の印鑑証明書の提供を受ける必要があるときは,あらかじめ,これらの書類の提供をお願いしておくのが安全だと言えます。
後日,実は上申書が必要でしたとなったものの,他の相続人の協力が得られないという事態になってしまえば,手持ちの書類で登記手続を進めることができなくなってしまいます。

どうしても名義変更できない場合は,最後の手段として,訴訟により移転登記を求めることもできます。
ただ,訴訟手続につきましては,判決を得て確定するまで,スムーズにいっても何か月かの時間がかかりますし,他の相続人が遺産分割協議書を勝手に作られた等の主張を行えば(主張が通る,通らないは別として),さらに時間がかかることになってしまいます。
このような事態を避けるためにも,遺産分割協議が成立する前の段階で,登記簿上の名義人を確認しておくべきだと言えます。

登記簿上の住所3

登記簿上の住所と住民票の住所がずれている場合で,悩ましいのが,改正原戸籍の附票が廃棄されており,登記簿上の住所から住民票の住所への移転の経緯を証明できない場合です。
改製原戸籍の附票は,保存期間が5年になっています。
一部,コンピューター化前の改正原戸籍につき,5年以上までのものを保管しているケースもありますが,そうでなければ,改正原戸籍の附票が廃棄されており,登記簿上の住所から現在の住所への移転の経緯を証明できなくなってしまいます。
このように,現実には,戸籍や住民票をもって,登記簿上の名義人と被相続人が同一人物であることが証明できないことがあります。

では,このような場合に,登記簿上の名義人と被相続人が同一人物であることをどのように証明すればよいのでしょうか。
この点は,法務局の取扱い次第というべき部分であり,一概にこうであると言い難い部分ですが,三重県で登記を行う中では,おおむね次の証明方法が認められているようです。

第一に,
① 固定資産評価証明書に出てくる住所と,被相続人の住民票の住所が一致していること
② 直前の登記がなされた当時の被相続人の本籍地と,登記簿上の住所が一致していること
の2点をもって,同一性を証明する方法です。

固定資産評価証明書は,市町村役場で取得することができます。
登記申請をする場合には,登録免許税の計算するために取得すべき書面でもあります。
直前の登記がなされた当時の被相続人の本籍地についても,相続登記の場面であれば,戸籍を取得しているでしょうから,取得済みの書類で確認することができることになります。
このように,評価証明書プラス本籍の所在をもって,同一人物であろうと判断され,登記の手続を進めることができる可能性があります。

登記簿上の住所2

被相続人と登記簿上の名義人とが同一人物かどうかが問題となるのは,登記簿上に記載された名義人の住所が,被相続人の住所とずれている場合です。
パターンとして多いのは,生前に住所の変更があったにも関わらず,登記簿上に記載された住所を変更しなかった場合です。
登記簿に記載された住所と実際の住所との間にずれがあったとしても,普段の生活には特段の不都合が生じないため,登記簿に記載された住所が昔の住所のままになっていることは,しばしばあります。
このように,登記簿に記載された住所と,被相続人の(住民票等の)住所がずれてしまっている場合,どのようにして,登記簿に記載された名義人と被相続人とが同一人物であると証明するかが,問題となることがあるのです。

それほど手間がかからないのは,住民票等の住所の移転の流れを証明することです。
たとえば,本籍を移さずに住民票を移した場合は,戸籍の附票を取得すれば,住民票上の住所の動きを明らかにすることができます。
このような場合は,戸籍の附票を提出すれば,登記簿上の(転居前の)住所と,(転居後の)被相続人の住所とのつながりを証明することができます。

他方,登記簿上の住所が記載されて以降,本籍が移転している場合は,新しい本籍の戸籍の附票だけでは,住民票の動きを確認することができません。
このような場合は,古い本籍についても,附票(除籍の附票,改正原戸籍の附票等)を取り寄せ,登記簿上の住所が記載されて以降の住民票の動きを明らかにする必要があります。

このパターンであれば,市区町村役場から数枚の書類を取り寄せれば済むことですので(弁護士であれば,職務上請求で取り寄せることができます),あまり問題はありません。

登記簿上の住所1

遺産分割の件を扱う場合は,協議書や調停調書をまとめる際,登記ができるものになっているかどうかを確認しておく必要があります。
遺産分割のゴールの1つは,名義変更を行うことです。
弁護士として事件にかかわる以上,ゴールまでの道筋に関与するのが求められるところだと思います。

相続の登記を行うに当たり,しばしば問題となるのが,登記簿上の名義人と被相続人が,同一人物かどうかということです。
当事者や事件を進める側からすると,同一人物であることは当たり前だと言いたくなることもある部分ですが,登記を行う場合には,同一人物であることが間違いないという確証を示さなければならないのです。

登記簿上の名義人と被相続人が同一人物かどうかを判別する重要な要素は,住所です。
登記簿をご覧になると分かりますが,登記簿には,名義人の住所が記載されています。
登記簿上の住所は,基本的に,住民票等の住所が記載されることとなります。
たとえば,名義人が土地を取得したときに,その時の住民票等を提出し,住民票等に記載された住所が登記簿に記載されることとなるのです。
その後,名義人が住所を変更した場合には,新住所の住民票等を提出し,住所変更の登記申請を行い,新しい住所を登記簿に反映することとなるのです。

このように,住所が変更される毎に,住所変更の登記の手続を行えば,結局,被相続人の死亡時点の(住民票等の)住所と登記簿上の住所が一致することとなります。
この場合は,住民票等を提出すれば,被相続人と登記簿上の名義人が同一人物であるということが分かりますので,相続の登記を進めることができることとなるのです。

土地の形状の把握

普段,土地を使用している分には,土地の正確な形状を把握しなければならないことは,それ程多くないと思います。
弁護士として,不動産の問題にかかわる場合や,税金の申告(相続税申告,贈与税申告等)のため,不動産の評価を行う場合には,土地の形状を把握しなければならないことがあります。

地籍測量が行われた土地については,現地へ行って,境界標等を確認すれば,境界がどこにあるかを確認することができます。

図面上で形状を把握したい場合は,最初に,地積測量図の有無を確認することが多いです。
分筆された時期が新しい土地等については,地積測量図が作成され,法務局で土地の図面を取得することができます。
法務局の登記情報提供サービスのホームページでも,1件当たり367円で地積測量図を取得することができます(松阪市にいながら,全国の土地の図面を取得することができます)。

地積測量図が作成されていない場合は,土地上の建物について,建物図面が作成されていないかを確認することが多いです。
建物図面で土地の形状が分かるのかと思われるかもしれませんが,建物図面には,建物の各階の形状だけでなく,土地上のどこに建物が建っているかも記載されています。
土地の形状が記載された図面の上に,建物の形状が記載されているのです。
このため,建物図面を確認すれば,それなりに正確な土地の図面を入手することができます。

建物図面も作成されていない場合には,基本的には,公図を参考にしていくこととなります。
ただ,公図については,宅地であっても,形状が歪んでいる場合等があり,信頼性が劣ると考えざるを得ない場合があります。
どうしても正確な図面が必要な場合には,幾分かの費用を支払い,測量を依頼することになると思います。

 

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不動産がある場所の特定3

不動産の所在場所を確認するに当たり,最も悩ましいのは,山林の場合だと思います。
山林の場合,公図に書かれた形状,位置関係等は,多くの場合,まったくあてになりません。
登記簿に書かれた地積についても,三重県では,縄伸び,縄縮みが目立ち,正確な面積が記載されていません。

弁護士業務としては,林業を営んでいる場合でもない限り,山林の正確な位置を把握する必要があることは,あまりありません。
山林自体が放置されていることが多く,当事者の関心事になることが少ないからです。

他方,相続税申告に際しては,山林上に存在する樹木は,立木と扱われ,評価対象にしなければならないことがあります。
原野等が山林になってしまった場合や,いわゆる雑木林の場合は,仮に立木を評価したとしても,評価額が0円になってしまうことが多いと思いますので,あえて立木を評価する必要もないと思いますが,杉や檜等が生育している場合は,材木として売買されること等を想定し,評価を行う必要があります。
現に林業を営んでおらず,仮に林業を営んだとしても赤字になることが想定されるとしても,正面から評価を行わなければならないのです。
このため,山林の所在場所をある程度特定し,立木が評価の対象になるかどうか等の目星をつける必要があることになるのです。

山林の場合は,各都道府県で,森林簿,森林基本図等が作成されています。
三重県でも,県庁の森林・林業経営課の窓口において,これらの書類を交付してもらう必要があります。
森林基本図は,山林の境界が記載された図面です。
航空写真に境界が書き込まれているため,公図よりも正確に境界を把握することができます。
森林簿は,山林の所有者(県が把握している所有者)や,立木の樹種,林齢,材積等が記載されています。
厳密には,これらの情報も,必ずしも正確ではないとの説明がなされるところですが,立木の評価等に当たっては,こうした情報が重要な参考資料になることは確かだと思います。

森林簿や森林基本図の交付を受けるに当たっては,所有者自身か,所有者の関係者であることを証明する必要があります。
代理人として取得する場合には,本人の印鑑証明も必要になります。

不動産がある場所の特定2

不動産の所在場所の特定で困るのが,農地の場合です。
農地については,地番を把握していたとしても,地図上にその地番が表示されていないことがほとんどです。
グーグルマップ等を利用しても,農地の地番については,基本的に場所を表示してもらうことができません。
法務局へ行けば,備え付けのブルーマップに農地の地番も記載されていますが,三重県外のブルーマップを確認するためには,県外の法務局へ行く必要があります(県立図書館等も,基本的に県内のブルーマップしか置いていないと思います)。

そこで,農地については,全国農地ナビ(https://www.alis-ac.jp/Doc/FarmNavi)のサイトを利用して,おおまかな情報を入手するのが便宜です。
全国農地ナビを利用すると,農地の地番から,農地の所在場所を航空写真で表示してもらうことができます。
また,農地の所在場所でだけでなく,
① その農地が農業振興地域の農用地区域内か(税務申告の際の評価倍率を特定する場合等に確認する必要があることがあります),
② 賃借権が設定されているかどうか(相続税申告に際し,賃借権割合を控除できるかどうかを判断する際,確認する必要があります)
等の情報を得ることもできます。
このようなサイトを利用すれば,松阪市にいながら,全国の農地の情報を取得することができます。

ただ,稀に,現況が駐車場であるにもかかわらず,農地と表示されていることもあります。
また,市街化区域内の場合,生産緑地に当たるかどうかについては,情報を得ることができません。
結局,情報を正確に把握するためには,インターネット上の情報だけではなく,現地の農地の状態も確認する必要があるということになりそうです。

不動産がある場所の特定1

弁護士として遺産分割の案件を進める場合や,税理士として相続税申告の準備を行う場合,遺産に含まれる不動産の現状を把握する必要があります。
多くの場合は,初回の打合せにおいて,固定資産税の納付通知書を持参される方が多く,納付書の不動産の一覧の記載によって,おおむね,特定の市町村に存在する不動産の一覧を把握することができます。

一覧に書かれた不動産のうち,宅地については,特定が容易なことがほとんどです。
多くの場合には,一覧に書かれた地番を地図等で検索すれば,宅地の場所を特定することができます。
住居表示が実施されている地域についても,法務局の登記情報提供サービスを行っているホームページをうまく利用すれば,地番から地図上の場所を特定することができます。
1つの宅地が何筆かに分かれている場合も,一覧に記載された宅地のうちのどれかを地図上で特定することができれば,公図等を利用して位置関係を把握することができます。

このように,宅地については,所在場所を特定することは,それ程難しいことではありません。

遺留分減殺請求によって何が起きるか3

相手方が預貯金の払戻を行う前に遺留分減殺請求訴訟を行う場合については,誰を被告にすべきかにつき,悩ましい問題が生じます。

遺留分の制度の理屈からいうと,遺留分を侵害する限度において,請求する側が預貯金等を取得することとなります。
そして,相手方が預貯金等を払い戻していない場合は,預貯金等が金融機関等に残されたままになっているわけですから,請求する側は,金融機関等に対し,預貯金等のうち,遺留分に相当する分の払い戻しを請求すべきであるということになりそうです。
ただ,請求のされた銀行の側は,相続問題自体には何らの関与のしていないわけですから,遺留分減殺請求をされたところで,事情が分からないと答えるしかないと思います。
特に,遺留分を請求する側か,される側に対する生前贈与があるとの主張がなされており,遺留分が単純に法定相続分×2分の1か3分の1にならない場合は,裁判所が生前贈与の有無を判断しなければならないですが,銀行は,通常,生前贈与があったかどうかについての情報を何も持っていません。
結局,遺言で財産を受け取ることとなった相続人が,実際の紛争の相手方になるわけですから,遺言で財産を受け取ることとなった相続人を呼ばなければ,裁判を進めることができないということになるのです。
このため,銀行を被告として遺留分相当額の預貯金の払戻請求を行った場合には,遺言で財産を受け取ることとなった相続人を訴訟手続に参加させる手続が取られることとなるのです。

このように考えて行くと,そもそも,最初から,銀行を被告として預貯金の払戻請求をするのではなく,遺言で財産を受け取ることとなった相続人を被告として裁判をした方が,早いのではないかという気持ちになってきます。
実際,預貯金が払い戻されていない場合であっても,遺言で財産を受け取ることとなった相続人を被告とし,預貯金の遺留分相当額の支払請求をするとの内容の訴訟がなされている例もあるようで,そのまま判決に至っている例も散見されます。
遺留分の制度の理屈からすると,しっくり来ない部分ですが,紛争の実体からすると,こちらの方がむしろ自然であるように思います。

私自身,弁護士になってから,何度か,預貯金が払い戻されていない事案で,遺言で財産を受け取ることとなった相続人を被告として訴訟をしたことがあります。
今のところ,裁判所から,この点で指摘を受けたことがないですが,類似する事案になった場合には,その都度,疑問を感じつつも,手続を進めている部分です。