まったくの別件になりますが、亡くなられた方に相続人が存在せず、相続財産の帰趨が問題となった案件がありました。
相続人不存在のため、相続財産管理人(現在では相続財産清算人)の選任がなされ、清算手続が進められました。
相続債権者、受遺者が存在せず、特別縁故者の申立もなされませんでした。
被相続人が所有する財産の中に、被相続人と遠縁の親族が共有する土地がありました。
この土地については、清算の過程で売却されることのないまま、相続財産として残っていました。
特別縁故者が存在しない場合は、残された相続財産は、国庫帰属となり、国に引き継がれることとなります。
ただ、被相続人が第三者と共有していた財産については、別の結論になります。
民法255条は、共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がいないときは、その持分は、他の共有者に帰属すると定めています。
民法255条によると、相続人がいないときは、他の共有者が持分を引き継ぐこととなるのです。
この持分の引き継ぎについて、他の共有者は、対価を支払わなくても良いこととされています。
つまり、財産にどれだけの価値があったとしても、相続人がいない人の持分については、経済的な負担なしで他の共有者に引き継がれることとなるのです。
この他の共有者への引き継ぎは、特別縁故者が存在しないことが確定した段階でなされることとなっています。
このような理屈から、先の事例では、被相続人の持分は、国ではなく、他の共有者に引き継がれることとなったのです。
ここで最初の事例に戻りたいと思います。
最初の事例ては、先祖代々の不動産を、依頼者である兄弟姉妹と、相手方相続人である配偶者が、遺産未了の状態にしていました。
遺産分割未了の状態は、法的には、遺産共有の状態と扱われることとなり、兄弟姉妹と配偶者が先祖代々の不動産を遺産共有していることとなります。
このような状況が続き、さらに配偶者が亡くなったとします。
配偶者には相続人はいませんので、相続財産管理人(現在の相続財産清算人)が選任され、清算手続が完了すると、国庫帰属の前に、共有財産の他の共有者への引き継ぎがなされることとなります。
そして、遺産共有も同様の扱いとなるのであれば、清算手続が完了しても不動産が残っている場合は、先祖代々の不動産について被相続人が有していた持分を、他の共有者である兄弟姉妹が、経済的な負担なく、引き継ぐことができるのではないかと考えられるのです。
この点を踏まえると、最初の事例では、先祖代々の不動産については、あえて遺産分割未了のままとしておき、配偶者が死亡し、清算手続が完了した段階で、他の共有者である兄弟姉妹か引き継ぐことを狙うことが考えられました。
この方法であれば、遺産調停、審判の場合のような、配偶者に不動産が引き継がれてしまうリスクを避けることができます。
また、民法255条により他の共有者として引き継ぐのであれば、兄弟姉妹が対価を支払う必要もないこととなります。
時間はかなりかかるものの、経済的負担なく不動産を引き継ぐことができるのであれば、メリットがあるのではないかと考えられます。
あとは懸念点の検討です。
相続財産管理人(現在は相続財産清算人)の清算手続が完了した時点で、遺産共有の不動産が残ったままの状態になっていれば、他の相続人が引き継ぐことができるという話は、裏返せば、清算手続完了時点で、共有不動産が残っていない場合には、民法255条は使えないという話になります。
清算手続がなされる被相続人=配偶者が、債務を負っており、共有不動産を処分しなければ債務を弁済することができないときは、共有不動産を処分しない限り清算手続が完了しないこととなりますので、民法255条は使えないこととなります。
また、債務がなかったとしても、相続財産管理人(現在の相続財産清算人)の判断で、不動産の共有持分の処分の試みがなされる可能性もないわけではありません。
このような場合は、清算手続を進めるためにも、むしろ、兄弟姉妹に対し、共有不動産の持分の買い取りを求められる可能性も高いです。
もっとも、逆に言えば、兄弟姉妹に対して不動産の持分の買い取りを求められる可能性が高いため、対価を支払さえすれば、不動産を取得することができる可能性がかなり高いと言うこともできます。
以上を踏まえると、やはり、最初の事例では、あえて不動産を未分割のままにしておくメリットがあると言うことができそうという結論になりました。
※ なお、相続登記義務化により、今後は、法務局が相続登記を求めてくる可能性もありますが、相続人申告登記を行えば対処は可能です。
このように、弁護士の仕事では、ある案件の解決が他の案件の解決にも影響するということが、往々にしてあります。
垂直的思考だけでなく、水平的思考も求められる仕事であると言うことができます。