ここで、1つの仮想事例を紹介したいと思います。
被相続人が亡くなり、未分割の複数の不動産が存在したものの、相続人間で遺産分割が未了のままとなっていました。
被相続人には子がいませんでしたので、相続人は、被相続人の配偶者、被相続人の兄弟姉妹になっていました。
不動産は、先祖代々引き継がれてきた不動産でしたが、相続人間での遺産分割協議が一向に進まず、名義変更ができないままとなっていました。
このような状況下で、被相続人の兄弟姉妹の方が、遺産分割未了のまま、問題を次の世代に持ち越したくないとの思いから、弁護士に相談に来られました。
上記の場合、法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が合計4分の1となります。
遺産分割協議が成立しない以上、遺産分割を進めるのであれば、兄弟姉妹が合計4分の1の相続分であることを前提として、協議なり法的手続なりを進めることになると考えられるところでした。
そして、協議が望めないのであれば、遺産分割調停の申立をするより他ないと思われるところでした。
不動産については、兄弟姉妹が取得するのであれば、配偶者に不動産の評価額の4分の3に相当する代償金を支払わなければならない可能性が高いです。
また、配偶者が過半数の相続分を有していることも踏まえると、遺産調停、審判の手続で、配偶者が不動産の相続を希望すれば、兄弟姉妹か必ずしもすべての不動産を引き継げるとは限らない状況でした。
相談に来られました兄弟姉妹は、先祖代々引き継がれてきた不動産を引き継ぐため、多額の代償金を支払わなければならないこと、さらには、不動産のすべてを引き継げるとは限らないことについては、忸怩たるものがあるものの、法律がそうなっているのであれば、やむを得ないとの話をしていました。
その後、さらに話を伺ったところ、相手方相続人となっている配偶者には、存命の兄弟姉妹がおらず、甥姪もいないことが判明しました。
このため、さらに、相手方相続人である配偶者が亡くなった場合には、相続人となる人はいないこととなりました。
もっとも、この情報は、現在問題となっている、被相続人の相続問題とは別問題でした。
相手方相続人である配偶者が亡くなり、相続人が存在しないときは、相続財産管理人(現在では相続財産清算人)の選任がなされ、清算手続が完了すると、残余の財産は国が引き継ぐこととなるはずです(相続債権者、受遺者、特別縁故者がいない場合)。
被相続人の遺産分割が完了し、被相続人の財産を配偶者が引き継いだときも、引き継いだ財産は、配偶者の死亡後、国に引き継がれることとなります。
国が引き継がれ、兄弟姉妹の側に戻ってこないのであれば、法的には、兄弟姉妹にとっては関係のない話になります(心情的な点は措くとして)。
このため、この情報は、法的な結論には影響しないはずの事情でした。
こうした状況下においては、兄弟姉妹から遺産分割調停の件をお受けし、被相続人の遺産分割を進めることが、当方の仕事となるはずでした。
ところが、別件で、異なる帰結となった出来事があったため、考えを改めなければならなくなりました。