日別アーカイブ: 2024年11月21日

中古の賃貸物件を利用した「節税策」

1 中古の賃貸物件を利用した節税話
所得税を抑制するための節税策として、減価償却済みの中古の賃貸物件(アパートや戸建住宅、マンション)を取得する方法が紹介されることがあります。
これは、以下のような点に着目した節税策になります。

賃貸物件を購入するためには、ある程度、まとまった費用を支出する必要があります。
この賃貸物件の購入費用については、その後、減価償却により、毎年の所得から差し引くことができます。
特に、減価償却済みの建物については、簡便法を利用することができ、通常の法定耐用年数の5分の1の期間で減価償却することができます。
木造でしたらわずか4年、軽量鉄骨でもわずか5年前後という短い期間で、減価償却を行うことができます。
このように、5分の1という短期間で減価償却を行うこととすれば、1年間に減価償却できる金額は大きくなります。
この毎年の減価償却費については、毎年の所得から差し引くことができますので、毎年、多額の減価償却を行うことにより、毎年の所得税の額を大きく軽減することができるのです。
たとえば、給料についても、総合課税の所得である以上、減価償却費を差し引く対象にすることができますので、給料等の他の所得との関係でも、大きな節税ができるという話になるのです。

2 節税話の落とし穴
このような「おいしい」節税話を聞くと、毎年の所得税を軽減するために、是非、利用したいと考えてしまう方もいらっしゃると思います。
三重でも、「このような節税話を聞いたのだけれども、実際のところどうなのか」という相談がなされることもあります。

現実には、「おいしい」節税話には、落とし穴があることが多いです。
今回の節税話についても、実際には、落とし穴が存在し、ケースによっては、かえって税負担が増えてしまいかねないです。

問題となってくるのは、減価償却が完了した後、どうなるかということです。
木造でしたら4年、軽量鉄骨でしたら5年前後が経過すると、中古の賃貸物件は、減価償却済みとなってしまいます。
4年~5年が経過した後は、「節税効果」が失われてしまうこととなるのです。
「節税効果」が失われて以降も、中古の賃貸物件を所有し続けても、所得税は軽減されないですし、所有期間が長期化すると、中古の賃貸物件の老朽化が進んでしまいます。
最悪の場合は、中古の賃貸物件の解体等を検討せざるを得ず、むしろ、多額の経済的負担が生じてしまいかねません。

3 落とし穴対策?
このような話をすると、5年が経過したら、すぐに中古の賃貸物件を第三者に売却すれば良いのではないか、5年経過後であれば、さほど減価することなく売却できる可能性が高いのではないかという話がなされることがあります。
購入時と同額程度の価格で売却できれば、2度の売買による経済的負担を避けつつ、4年~5年間、減価償却費を所得から差し引くことができるという節税効果を生かすことができるはずという話になってくるのです。

4 節税話のさらなる落とし穴
現実には、上記の対策には、さらなる落とし穴があります。
中古の賃貸物件を手放す際には、買主から売買代金の支払がなされます。
このように売買代金を受け取ると、利益が発生したと捉えられ、譲渡所得税が課税されることとなってしまいます。

このような話をすると、賃貸物件を購入したときの金額と売却したときの金額が同額程度であれば、利益は発生していないはずだから、譲渡所得税は発生しないのではないかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。

ここで、譲渡所得税の課税価格の計算方法について説明したいと思います。

課税価格=譲渡価格-取得費
    =賃貸物件の譲渡価格-(賃貸物件の購入価格-賃貸物件の減価償却費)
    =賃貸物件の譲渡価格-賃貸物件の購入価格+賃貸物件の減価償却費

※ 単純化のため、譲渡費用は度外視

上記の式で、賃貸物件の譲渡価格≒賃貸物件の購入価格とすると、「賃貸物件の減価償却費」が譲渡所得税の課税対象として残存してしまうこととなるのです。
つまり、毎年の所得を軽減するため、毎年の減価償却費を計上したことが、譲渡所得税との関係では、かえって、減価償却費分の課税がなされてしまうという結果をもたらしてしまうこととなるのです。
譲渡所得税の税率は20.315%(長期譲渡所得の場合)ですので、毎年の所得税率が20.315%に満たなければ、「節税策」を用いたことにより、むしろ、トータルの税負担が増大してしまうという結果を招いてしまうこととなるのです。

結局、このような節税策が有効なのは、5年経過後に賃貸物件を同額程度で売却することができ、かつ、毎年の所得税率が20.315%を上回る場合等の、限定的なケースであることとなりそうです。
このように、「おいしい」節税話は、実は、活用できる場面が限られていることが多いです。
何事においても、表面的な話だけでなく、十分な知識に基づいて、慎重に検討するべきであると言うことができそうです。