日別アーカイブ: 2022年7月12日

相続放棄と相続財産の管理義務1

ある人が相続放棄を行った場合には、その人は最初から相続人ではなかったものとされます。

その結果、相続放棄を行った人は、被相続人が所有していた財産を取得することができなくなる代わりに、被相続人が負っていた債務についても返済する義務を負わないこととなります。

ところで、最近では、相続放棄を行ったとしても、相続財産の管理義務を負わなくなるわけではないという話がなされることがあります。

最近でも、相続放棄を行った後も財産の管理義務を負うのではないかということを心配されて、弁護士に相談に来られる方がいらっしゃいます。

これは、民法940条1項が、以下のとおり定めているためです。

民法940条1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

このように、相続放棄をした後も、相続財産を管理する義務を負わなければならないとされている以上、相続放棄をした後に相続財産について何らかの問題が発生した場合には、相続放棄をした人が法的責任を負うこととなるのではないかということが懸念されるところです。

具体的には、相続放棄後をした後に、相続財産である建物が倒壊したり、火災が発生したりし、近隣住民に損害が生じた場合には、相続放棄をした人が、管理義務を怠ったことを理由として、損害賠償義務を負うこととなるのではないかということが懸念されます。

このような理由から、損害賠償義務を負うことを心配されて、相続放棄をした後の財産管理について相談に来られる方が、しばしばいらっしゃいます。

前提として、民法940条については、以下の解釈がなされています。

① 民法940条は、相続放棄をした人が、相続放棄により新たに相続人となった人との関係で、相続財産を管理する義務を負うものとしているに過ぎないものである。新たに相続人となった人以外との関係で、相続放棄をした人が管理義務を負うことはない。

② 民法940条は、相続放棄をした人が、相続放棄により新たに相続人となった人だけではなく、それ以外との関係でも、相続財産を管理する義務を負うものとしているものである。

①の解釈だと、建物の倒壊や火災により、近隣住民に損害が生じた場合については、相続放棄をした人は、近隣住民との関係では損害賠償義務を負わないという結論になりそうです。

②の解釈だと、相続放棄をした人は、近隣住民との関係でも、損害賠償義務を負うこととなりそうです。

このように、民法940条の解釈次第では、相続放棄をした人が近隣住民に対する損害賠償義務を負うかどうかについての結論が変わってくることとなります。

この点について、裁判所の判断が集積しているわけではなく、①と②のどちらの解釈になるかは、不確定な部分があります。

このため、万全を期するという観点からは、近隣住民との関係でも損害賠償義務を負う可能性があるとの前提のもと、対処策を検討するのが良いのではないかと考えられるところです。

相続放棄後の対処策としては、相続放棄により新たに相続人となった人に連絡し、財産の管理の引き継ぎを行うことが考えられます。 また、相続放棄により相続人が存在しないこととなる場合には、相続財産管理人を選任し、相続財産管理人に財産の管理を引き継ぐことが考えられるところです。