平成31年度の税制改正によって,配偶者居住権(長期)の評価方法については,かなりの部分が確定したものと思います。
税制改正の評価方法を用いれば,誰が計算したとしても,同じ計算結果になりますので,実務上の有用性は大きいと思います。
もっとも,平成31年度の税制改正によっても,実務上の取扱いが未確定の部分が残っています。
たとえば,以下の点は,未確定の問題として残っているように思います。
被相続人が亡くなり,相続人が配偶者,子A,子Bの3名である場合を考えたいと思います。
遺産は,被相続人の自宅の土地・建物(配偶者が居住),預貯金であったと仮定します。
このような事例で,子Aが土地・建物の所有権を取得し,配偶者が土地・建物の配偶者居住権(長期)を取得したとします。
相続税が課税される場合には,子Aは居住権が設定された土地・建物を取得したものと扱われ,配偶者は居住権を取得したものと扱われます。
ここで考えたいのは,さらに時が経過し,配偶者が亡くなった場合(二次相続に場合)にどうなるかということです。
配偶者が亡くなると,配偶者居住権(長期)は消滅し,子Aは土地・建物の完全な所有権を取得することとなります。
この点を捉えて,配偶者から子Aに対し,居住権に相当する利益の相続が生じたと扱い,相続税が課税されるかどうかについては,まだ明らかになっていません。
個人的には,配偶者居住権(長期)が二次相続でどのように扱われるかは,弁護士も注意を払わなければならない重要な問題だと思っています。
それは,仮に,二次相続で配偶者から子Aへの居住権に相当する利益の相続があったと扱われないとすると,以下のように,配偶者居住権(長期)を遺留分対策に利用できてしまうと思われるからです。
被相続人は,子Aにできるだけ多くの財産を相続させ,子Bからの遺留分侵害額請求をできる限り阻止したいと考えている。
そこで,被相続人は,配偶者に配偶者居住権(長期)を遺贈し,居住権の設定された土地・建物と預貯金を子Aに相続させるとの遺言を作成した。
また,被相続人の配偶者も,すべての財産を子Aに相続させるとの遺言を作成した。
→ 一次相続では,「(土地・建物-居住権)+預貯金」が子Bの遺留分算定の基礎となる。
→ 二次相続では,居住権は子Bの遺留分算定の基礎とならない。
⇒ トータルで見ると,居住権の評価額分については,子Bの遺留分算定の基礎となる財産から除外され,その分,子Bからの遺留分侵害額請求を阻止することができる。
このように,今回の改正は,遺留分侵害額請求にも影響を及ぼしかねないものだと思いますので,今後の税制改正も含め,今後の取扱いの変化を注視していく必要があるものと思います。