5 事実に反する付言事項
遺言の付言事項に記載された内容は,訴訟において有力な証拠として利用されることがあります。
実際の事件でも,付言事項において,特定の相続人が贈与を受けたことが記載されていたため,その記載に基づき,過去に贈与が行われたことが認定され,遺留分等の主張が認められなかった例があります。
ところが,現実には,過去に贈与を受けたことがないにもかかわらず,付言事項において贈与を受けたと書かれている,実際に贈与を受けた金額を遥かに超える金額の贈与がなされたことが付言事項に書かれているといったことがあります。
付言事項にこうした事実とは異なる記載がなされる原因には,たとえば,一部の相続人が財産のすべてを引き継ぐことを希望し,「他の相続人が多額の生前贈与を受けているため,遺留分等の主張をすることができない」ことを遺言に記載することを要望したためである,といったものがあります。
6 具体的な対応方法
もちろん,付言事項に贈与を受けたと記載されていたとしても,事実に反する記載であることが明らかになれば,訴訟でも贈与を受けたと認定されることはなく,遺留分等の主張を行うことができます。
ただ,遺言書の付言事項に書かれていることは有力な証拠となりますので,どのようにして付言事項に書かれた内容が事実に反するものであることを明らかにできるかが,悩ましい問題となることがあります。
過去の事例では,贈与が行われたと記載されている前後の時期の,預貯金の履歴を照合する,現金の受け渡しの際に作成されたとされる受領証の内容を検証するといった行動を地道に行うことにより,実際には贈与は行われていなかったという認定を得ることができた例があります。
この事例では,預貯金の履歴から,実際には被相続人の預貯金が他の人物の口座に移動していたことが明らかになったこと,受領証の内容にも不自然な点があったこと等から,実際には贈与は行われていないとの認定を得ることができました。
こうした事実に反する記載が存在する事例では,地道な証明活動が結論を左右する可能性があります。
当方の主張を基礎付ける証拠を得ることができるかどうかが重要なポイントになりますので,こうした案件については,証拠収集の方法等を熟知している弁護士にご相談いただいた方が良いと思います。