日別アーカイブ: 2016年12月21日

預貯金の遺産分割についての最高裁の決定2

このように,原則の,「相続人全員で遺産分割をしなければ帰属が決まらない」と,例外の,「法定相続分に基づき当然に分割取得」の間には,大きな違いがあります。

第一の大きな違いは,相続財産の払戻し等を行うまでに要する時間の違いです。

我々弁護士が担当する案件は,相続人全員で遺産分割についての合意を行うことが困難である場合が多いです。
事案によっては,調停・審判等の手続に移行し,最終的に相続人全員で分け方を決めるまで,長い時間が必要になることもあります。

このため,原則の,「相続人全員で遺産分割をしなければ帰属が決まらない」財産の場合だと,決着がつくまで,その財産を動かすことができないこととなります。何月何日までに相続税を納付しなければならない場合や,何月何日までに亡くなった方の負っていた債務(アパートローン,事業上の負債等)を弁済しなければならない場合であったとしても,相続人全員で分け方を決めるまでは,財産を動かすことができないのです(緊急やむを得ない場合は,法律上,仮分割の仮処分を行うこともできるようですが,後日,言及したいと思います)。

他方,例外の,「法定相続分に基づき当然に分割取得」の場合は,各相続人に,法定相続分に基づく払戻しが認められることとなります。相続人全員で分け方を決めなくても,当然に法定相続分で分かれてしまうわけですから,各相続人からの法定相続分の払戻しが認められることとなるのです。

そして,これまでは,預貯金は,基本的に,当然分割される例外に属するものとされており,相続人各人が,金融機関に対し,法定相続分相当額の払戻しを請求することができるとされてきました(実際には,訴訟等をしなければ,払戻しに応じない金融機関もありますが,紛争状態にある相続人全員で分け方を決めるのに要する時間に比べれば,金融機関に対して訴訟をするのに要する時間の方が,圧倒的に短いことが多いです)。
たとえば,相続税の納付の必要がある場合に,預貯金について,法定相続分相当額を払い戻し,相続税の納付に充てることができたのです(私自身,三重でも,このような目的での払戻しを行ったことが,何度かあります)。