月別アーカイブ: 2016年 1月

遺言と登記3

最近,遺産を売却して売却代金を分配するという内容の遺言が作成されることが,多くなってきているように思います(清算型の遺言)。
弁護士として仕事をする中でも,時代の変化を感じることがしばしばあります。

たとえば,次のような遺言が清算型の遺言に当たります。
「次の不動産を売却し,売却代金から不動産売却に要する一切の費用を控除した残額を,Aに2分の1,Bに2分の1の割合で取得させる。」

このような遺言が作成された場合に,実際に不動産売却の手続を進めるためには,次の手続を減る必要があります。
① 被相続人名義から,A2分の1,B2分の1の共有名義に変更するため,相続登記を行う。
② A2分の1,B2分の1の共有名義から,買主名義に変更するため,売買の登記を行う。

①については,AとBが相続人であれば,それぞれ単独で名義変更を行うことができます。
さらに,Aは,Bの協力を得ることなく,単独で,A2分の1,B2分の1の相続登記を行うことができるとされています。
ですから,Bが手続に協力してくれなかったとしても,①の登記については,スムーズに行うことができるのです。

他方,②については,AとB,買主の全員が,共同して登記申請を行う必要があります。
この場合は,Aが,Bの協力を得ることなく,Bの持分についての売却の登記ができるというわけではありません。
Bにしてみれば,Aに勝手に持分を売却されては困るということになりますので,ある意味,当然の話ということができます。

このように,清算型の遺言を実現するためには,AとBとできちんと協議を行い,売却価格・時期等について取り決めを行った上で,手続を進めていく必要があることとなります。

とはいえ,相続人の関係が良好であれば問題はないのですが,相続人の関係が良好でない場合は,なかなか手続を進めることができず,遺言内容を実現することができない恐れがあります。
このような事態が予想される場合,遺言者として,あらかじめ何らかの手を打っておくことはできないのでしょうか。

この点についても,現在の実務では,清算型の遺言の場合も,遺言執行者を定めることが解決策となる可能性があります。

遺言と登記2

遺言で共同申請を行うべき場合は,基本的に,相続人全員の協力が得られなければ,登記を行うことができません。
相続人以外の人が不動産を取得(遺贈)するものとされた場合は,相続人全員協力を得られなければ,不動産の名義変更を行うことができません。
このため,相続人以外の人と相続人との関係が良好である場合は問題がないですが,相続人との関係が良好ではない場合は,スムーズに名義変更を行うことができないこととなってしまいます。
それでは,何らかの工夫を行うことにより,スムーズに名義変更を行うことができるよう,手を打つことはできないのでしょうか。

このような場合に,遺言で遺言執行者を指定するものとしておくと,相続人全員に代わり,遺言執行者が,共同申請を行うこととなります。
ですから,不動産を取得するものとされた人は,遺言執行者の協力(実印の押印と印鑑証明書(発効後3か月以内のものに限る)の交付)を得れば,不動産の名義変更をできるということになるのです。
遺言執行者を不動産を取得するものとされた人と関係が良好な人にしておけば,スムーズに名義変更を行えるよう,備えを行ったことになるのです。

それでは,さらに進んで,不動産を取得するものとされた人自身を遺言執行者に指定すれば,どうでしょうか。
この場合も,不動産を取得するものとされた人と,遺言執行者に指定された人(実際には,同一の人)が,共同で申請することにより,名義変更を行うことができるのです。
実際には1人の人が手続を行っているにも関わらず,共同申請と呼ぶのは違和感を覚えるかもしれませんが,同じ人を遺言執行者に指定したとしても,問題なく,遺贈の登記を行うことができるとされているのです。
このようにしておけば,不動産を取得した人は,実際上,単独で不動産の名義変更を行うことができることとなるのです。

弁護士会等で相談を受けた際に,相続人以外の人に財産を取得させる遺言について相談を受けた場合は,名義変更をスムーズに行うため,遺言執行者を指定した方が良いのではないでしょうかとお話しすることが多いです。