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遺留分に関する法改正2

3 税金関係について

税金関係についても、変更が生じたと思われる点があります。

次のような事例を考えたいと思います。

相続人は、A、Bである(法定相続分各2分の1)。

遺産は、1000万円の不動産(Aが使用)、3000万円のその他の財産である。

Bに対し、すべての財産を相続させる旨の遺言が存在した。

AがBに対し、遺留分(4分の1)に基づく請求を行った。

改正前については、遺留分減殺請求権を行使することにより、遺産である不動産については、遺留分権利者が相続開始時点より持分を有していたこととなりました。

このため、Aが遺留分相当額の財産として1000万円の不動産を取得することは、共有物分割により現物取得をしたと評価されることとなり、譲渡所得税の課税対象にはなりませんでした。

※ 旧所得税基本通達33-1の6(現33-1の7)

持分に応ずる現物分割があった時には、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う。

ところが、改正後については、遺留分権利者は、遺産である不動産については、何らの権利も有しておらず、遺留分相当額の金銭の支払を請求することができるのみとなります。

このため、Bは、Aに対し、遺留分に相当する金銭の支払を行う義務を負っていることとなります。

Bが、Aに対し、上記金銭の支払に代えて1000万円の不動産を譲渡することは、不動産をもって金銭の支払を免れたと評価されることとなりますので、Bには、譲渡所得税の課税がなされることとなります。

※ 所得税基本通達33-1の6

金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。

譲渡所得の課税となると、取得費に関する資料が残っているかどうかにもよりますが、所得税で15.315%、住民税で5%の課税がなされます。

不動産評価額の合計20,315%の負担となりますので、かなりの金額の税負担となる可能性があります。

このように、法改正後は、すべてを特定の相続人に相続させる旨の遺言が作成されている場合には、遺留分義務者に対し、想定外の課税がなされるリスクが生じる場面が出てきています。

このような問題を回避するためにも、遺言を作成し直す必要が生じる例も出てきています。

弁護士等が関与している場合は、法改正があった際には、改正法を踏まえて対応することも可能であると思いますが、弁護士等が関与していない場合には、こうした対応を行うことができず、不都合が生じてしまうケースも存在します。

一般国民の感覚としては、法改正にあたっては、問題を最小化するための手当てについて検討を尽くすべきであるとの考え方もあり得るところですが(上記の課税上の問題も、改正試案の段階ですでに指摘がなされていた問題でしたが、特段の手当てがなされることなく、改正がなされるに至っています)、現実にはそれが期待できないことも多いです。

法改正について気になるところがあれば、弁護士等にご相談いただき、個別に対応策を練るようにした方が良いのではないかと思います。

遺留分に関する法改正1

1 はじめに

遺留分制度については、2018年7月以降、改正法が施行され、制度が大きく変更されることとなりました。

改正後は、遺留分は、専ら、金銭での請求を行うことができることとされました。

改正前は、遺留分の請求を行うと、第一次的には、相続財産を共有している状況となり、遺留分を請求された側が金銭での価額弁償を希望する場合には、金銭の支払により解決することができると定められていましたが、改正後は、法的には、金銭での請求のみができることとされました。

これに伴い、請求権の呼び名も、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更されることとなりました。

こうした改正に伴い、遺留分について、何点か、改正前と比較して、取り扱いの変更が生じた部分があります。

改正法が施行されてから時間が経ちましたが、弁護士としては、改正された部分そのものだけでなく、改正に伴って生じる派生的な影響についても注意したいところです。

ここでは、変更が生じたと思われる点について、まとめたいと思います。

2 賃料の取り扱い

相続財産である不動産の中に、賃料が発生する不動産が含まれていることがあります。

改正前は、遺留分減殺請求権を行使することにより、遺産である不動産については、遺留分権利者が相続開始時点より持分を有していたこととなっていました。

ただし、賃料については、遺留分権利者が分配を請求することができるのは、遺留分減殺請求があった日以後の果実に限定されていました(旧民法1036条)。

このため、遺留分減殺請求がなされて以降に発生した賃料については、分配を請求することができた。

ところが、改正後は、遺留分権利者は、遺産である不動産については、何らの権利も有しておらず、遺留分相当額の金銭の支払を請求することができるのみとなりました。

このため、遺留分権利者は、遺産である不動産から発生する賃料については、分配を請求することができないこととなりました。

遺留分侵害額請求権の時効

遺留分侵害額請求権は、遺留分侵害の事実を知ってから1年以内に行使の意思表示をしなければ、時効によって消滅すると定められています(他に、10年の除斥期間と、侵害額請求権を行使したことによって発生した権利の時効も存在します)。
一般的に、債権の消滅時効の期間が10年と定められていることと比較すると、遺留分侵害額請求権については、かなり短期間で時効により消滅するものとされています。

それでは、時効になるのを防ぐためには、期間内にどのようなことをしなければならないのでしょうか。

遺留分侵害額請求権の場合は、相手方に対して遺留分侵害額請求権を行使するとの意思表示を行えば、時効消滅を避けることができます。
訴訟や調停等の裁判手続を用いなかったとしても、相手方に対する意思表示を行いさえすれば良いということになります。
規定上は、口頭で遺留分侵害額請求権を行使することを告げさえすれば良いのです(証明上の問題はありますが)。

ここで注意しなければならないのは、逆に、(裁判外での意思表示を行うことなく)裁判手続を用いた場合には、どの段階で時効消滅を避けることができるのかということです。

貸金返還請求権等の一般的な債権については、民事訴訟法147条が、訴えを提起したときに時効が中断すると定めています。
つまり、裁判所に訴状を提出すれば、相手方に訴状が送達される前であっても、時効が中断するということになります。
民事調停についても、民事訴訟法147条が準用され、同じ結論になると考えられています。

これに対して、遺留分侵害額請求調停について、裁判所のホームページには以下の記述があります。
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html
「遺留分侵害額の請求は、・・・家庭裁判所の調停を申し立てただけでは相手方に対する意思表示ではありませんので、調停の申立てとは別に内容証明郵便等により意思表示を行う必要があります」
このように、一般的な債権の時効中断とは異なり、遺留分侵害額請求については、調停の申立を行っただけでは、時効消滅を避けることはできないこととなります。
このため、調停申立だけを行ったものの、別途、相手方に対する意思表示を失念し、1年の期間が経過してしまうと、遺留分侵害額請求権を行使することができないこととなってしまいます。

それでは、遺留分侵害額調停を前置することなく、遺留分侵害額請求訴訟を提起した場合はどうなるのでしょうか。
この場合については、後日、まとめることとしたいと思います。

遺留分侵害額調停申立だけでは時効消滅を避けることができないという点は、弁護士でも勘違いしてしまうポイントのようです。
遺留分侵害額請求の場合は、一般的な債権とは異なり、裁判所に書類を提出すれば時効の問題はなくなると考えるのではなく、別途、内容証明郵便等による意思表示を行うべきでしょう。

遺留分の放棄

相続の権利については,被相続人の生前には放棄することができないこととなっています。
このため,被相続人の生前に,特定の推定相続人の1人が相続権を放棄するとの意思表明を行ったとしても,法律上は,何の意味もないこととなります。
相続権を放棄するとの意思表明を行った相続人は通常の場合と同じように,相続権を主張することができることとなります。

これに対して,遺留分については,被相続人の生前に放棄することが認められています。
家庭裁判所において遺留分放棄の許可審判の申立を行い,家庭裁判所がこれを許可することにより,遺留分の放棄が認められることとなります。
このため,後継者に対してすべての財産を相続させるとの遺言を作成しておき,その他の推定相続人が遺留分放棄の許可審判を得ることができれば,その他の推定相続人は,遺留分も含めて,相続の権利を主張できないものとすることができます(ただし,遺留分を放棄してから,相続が起きるまでの間に,被相続人の財産に大きな変動があった場合は別です)。

ところで,遺留分放棄については,家庭裁判所が許可する必要があることとされています。
そして,家庭裁判所は,その他の推定相続人に対して十分な生前贈与がなされている等,一定の要件を満たす場合に限り,許可の審判を行います。

ところで,これまでの法律では,遺留分権利者に対して生前贈与がなされている場合には,生前贈与の対象となった財産は,遺留分の算定の際に,遺留分額から差し引き計算することができることとなっています。
そうすると,遺留分の放棄が許可されるような十分な生前贈与が行われている事案では,そもそも,遺留分を計算する場面でも,生前贈与の対象となった財産を差し引き計算することができ,結局,遺留分の主張を行うことができないこととなりそうです。
つまり,生前贈与がなされたという証拠をしっかり残しておけば,あえて遺留分の放棄の手続を行わなかったとしても,その他の推定相続人からの遺留分の主張を回避することができることとなりそうです。
この点を踏まえると,遺留分の放棄については,法律関係を明確にする以上の意味はないこととなりそうです。

ところが,このような結論は,令和元年7月に施行された改正相続法により,変わることとなりそうです。
改正相続法では,遺留分侵害額請求の際に差し引き計算される生前贈与が,相続から遡って10年前までになさりた贈与に限られることとなりました。
このため,相続から遡って10年よりも前に贈与がなされた場合には,遺留分の計算上差し引き計算されないこととなり,贈与を受けた相続人は,遺留分の主張もできることとなります。

これに対して,遺留分の放棄については,有効期限はありません(ただし,あくまでも,被相続人の財産に大きな変動がないことが前提です)。
このため,贈与から相続発生まで,長い期間(10年よりも長い期間)が空くことが予想される場合には,遺留分の放棄を行っておくことで,将来の遺留分侵害額請求を避けることができる可能性があります。

このように,改正相続法では,新たに,遺留分の放棄の制度を活用すべき場面が出てくることとなりそうです。

今回の相続法改正に限らず,法改正があったときには,他の規定との相乗効果で,文言を読んだだけでは気づかないような影響が生じることがあります。
弁護士として活動する際には,このような変化により多く気づけるようになりたいものです。

遺留分の計算方法

遺留分については,相続分に2分の1を掛け算することにより,簡単に計算ができるとの説明がなされることがあります。
確かに,多くの事例では,相続分に2分の1を掛け算することにより,遺留分を算定することができます。
ところが,実際には,イレギュラーな事情があると,相続分に2分の1を掛け算する計算方法だと,誤った計算になり,遺留分額が大きく異なってくることがあります。

遺産総額次第では,わずかな分数の違いにより,算定される遺留分額も大きく異なってきます。
弁護士として遺留分についての相談をお受けする場合には,イレギュラーな事情を見逃すことのないよう,細心の注意を払わなければならないところです。
そのためには,遺留分の算定方法について,正確な理解をしておく必要もあります。

第一に,弁護士等の法律家がすぐに思いつくのが,亡くなった方に子がいない等の理由により,父母のみが相続人となる場合です。
たとえば,父母のみが相続人である場合で,相続人ではない第三者に対し,遺産のすべてを遺贈するという遺言が残されていた場合です。
この場合に,父母が第三者に対して遺留分侵害額請求を行うと,総体的遺留分は,2分の1ではなく,3分の1となります。
このため,父母のみが相続人の場合は,算定される遺留分額は,子や配偶者が相続人である場合と比べて,小さくなることとなります。

第二に,配偶者と兄弟姉妹が相続人となる場合です。
たとえば,相続人ではない第三者に対し,遺産のすべてを遺贈するという遺言が残されていた場合を考えたいと思います。
この場合,相続分は,配偶者が4分の3,兄弟姉妹が4分の1です。
このため,相続分に2分の1を掛け算する考え方だと,配偶者の遺留分は8分の3であると言いたくなってしまうところですが,これは誤りです。

遺留分については,正確には,①まず総体的遺留分を計算し,②総体的遺留分を個々の遺留分権利者で分け合うという計算方法を用います。
今回の総体的遺留分は,父母のみが相続人の場合(第一の場合)ではないですので,2分の1となります。
次に,個々の遺留分権利者で分け合う計算になりますが,兄弟姉妹は,法律で遺留分権利者ではないこととされていますので,遺留分を分け合う立場にはないこととなります。
この結果,配偶者のみが遺留分権利者となりますので,配偶者が2分の1の遺留分をすべて主張することができることとなります。

最近,世間の注目を集めた,全財産を地方公共団体に遺贈するとの遺言が残されていた件が,まさしく第二と同じような状況になっていましたので,遺留分の計算方法についての話をまとめてみました。

遺留分侵害額請求の評価基準時

今回の相続法改正により,遺留分減殺請求権は,遺留分侵害額請求権へと名称変更され,専ら,金銭を請求する権利とされることとなりました。
改正前は,遺留分減殺請求権を行使した場合は,一旦は,権利行使した人は,相続・遺贈の対象となった個々の財産を共有することとなっていましたが,改正法では,遺留分額に相当する金銭の支払を請求することができるのみとなります。

このように,金銭の請求を行う場合は,いつを遺産の評価の基準時とするかが問題となります。
遺留分額は,おおむね,相続財産の純資産額に遺留分をかけ算することによって計算されます。
ここで問題となるのは,相続財産の純資産額を評価するのは,いつの時点が基準になるかということです。

遺留分を請求する間に,評価額がそんなに変動することがあるのかと思われる方もいるかもしれませんが,相続財産に株式が含まれている場合には,いつの時点を基準とするかによって,遺留分額は大きく変動することがしばしばあります。
特定の企業名は出しませんが,たとてば,関連企業が上場したことに伴い,株価が大きく値上がりしたことがありましたし,粉飾決算が判明したことにより,株価が大きく値下がりしたこともありました。
このように,大きく株価が騰落した企業の株式を多数持っていると,相続財産の全体額が大きく増減することも起き得ることとなるのです。

それでは,改正相続法の遺留分侵害額請求では,評価基準時はいつになるのでしょうか。
改正法では,相続財産の評価の基準時は,相続開始時点とされています。
そして,このことにより,次のような事態が生じることとなります。
相続開始後に相続財産が値上がりした場合であっても,遺留分額は,相続開始時点の評価額で固定されることとなります。したがって,相続開始後の値上がり分は,遺留分侵害額請求を受けた側の利益となることとなります。
反面,相続開始後に相続財産が値下がりした場合であっても,遺留分侵害額請求を受けた側は,相続開始時点の評価額により算定された遺留分額の金銭を支払わなければなりません。つまり,相続開始後の値下がり分は,遺留分侵害額請求を受けた側がかぶることとなってしまいます。
このように,今回の改正は,相続開始後の価格変動により,遺留分減殺請求を受けた側が得をすることもあれば,損をすることもあるという事態を招いてしまうものです。

遺留分侵害額請求を行う側については,相続開始後の価格変動に関係なく,相続開始時点の評価額に基づき,遺留分に相当する金銭の支払を受けることができます。
これに対し,遺留分侵害額請求を受けた側は,相続開始後に値上がりした場合には,有利になります。これに対し,相続開始後に値下がりした場合には,損失をすべてかぶらなければならなくなってしまいますので,死活問題になりかねません。
以上を踏まえると,法改正後は,相続財産の価格変動を見据え,リスク回避のために早期に財産を売却する等の対応を考えなければならない場面が出てくるように思います。
弁護士として相談を受けた場合には,こうした法改正によるリスクも踏まえつつ,必要な助言を行いたいところです。