カテゴリー別アーカイブ: 相続税

生命保険と相続税対策―③子が生命保険金の受取人になる場合

1 生命保険金の非課税限度額を効果的に利用することができる
子が受取人になった場合は,生命保険金の非課税限度額を利用することができます。
この結果,相続税の課税価格が減額されることとなり,相続税の総額も減額されることとなります。

加えて,生命保険金の受取人である子が取得した財産額についても,生命保険金の非課税限度額を引き算することができますので,大きな相続税の減額効果が生じることとなります。

このため,相続税の減額効果を大きくしたければ,基本的には,生命保険金の受取人を子に指定するのが効果的であることが分かります。

もっとも,先述しましたとおり,配偶者が生命保険金を受け取る場合であっても,配偶者が法定相続分相当額以上の財産を取得した場合等,配偶者の税額軽減を用いたとしても,配偶者が取得した財産に相続税が課税されるような場合は,子が生命保険金の受取人となる場合と同様の減額効果が生じることとなります。
以上から,非課税限度額を効果的に利用するためには,遺産総額がいくらであるか,どのように遺産分けを行うかといったことも考慮した上で,生命保険金の受取人を誰にするかを決める必要があることが分かります。

2 相続放棄を行うと,非課税限度額を用いることができなくなる
以上については,注意しなければならないことがあります。
それは,生命保険金の非課税限度額は,法定相続人が受け取った生命保険金についてのみ,設定されるものであるということです。
このため,相続放棄を行った場合には,法定相続人の地位を失うこととなりますので,生命保険金の非課税限度額を用いることができなくなってしまいます。

たとえば,生命保険金を除くと,相続債務の額が相続財産の額を上回っているような場合については,相続放棄を行い,生命保険金のみを受け取ることとすることを検討することがあるかもしれません。
先述のとおり,相続放棄を行うと,生命保険金の非課税限度額を利用することができなくなり,相続税の負担が大きくなってしまいます。
このような場合には,相続債務の額と相続財産の額の比較だけでなく,相続税の負担の増加も考慮に入れて,相続放棄を行うかどうかを検討すべきでしょう。

弁護士としてご相談をお受けする場合は,生命保険金は基本的に相続では考慮されないとの回答のみになってしまうことが多いですが,相続税の課税上は,税負担がどうなるかに大きく影響してきますので,時間をかけて説明をさせていただく場合が多いです。

生命保険と相続税対策―②配偶者が生命保険金の受取人になる場合

1 生命保険金の非課税限度額を利用することができる
配偶者が受取人になった場合は,生命保険金の非課税限度額を利用することができます。
この結果,相続税の課税価格が減額されることとなり,相続税の総額も減額されることとなります。

2 配偶者の税額軽減も利用することができる
もっとも,配偶者が取得した財産については,配偶者の税額軽減という別の制度が設けられており,相続税が大きく減額されることとなっています。
配偶者の税額軽減とは,配偶者が取得した遺産額については,次の金額のどちらか多い金額までは,相続税が課税されないという制度です。
・ 1億6000万円
・ 配偶者の法定相続分相当額

このように,配偶者の税額軽減により,配偶者が取得した財産に相続税が課税されないこととなっている場合には,重ねて,生命保険金の非課税限度額により,配偶者が取得した財産に課税される相続税が減額されるという効果が生じることはありません。
他方,配偶者が法定相続分相当額以上の財産を取得した場合等,配偶者の税額軽減を用いても,配偶者が取得した財産に相続税が課税されることとなる場合は,さらに,生命保険金の非課税限度額を用いることができ,配偶者が取得した財産に課税される相続税をさらに減額することができます。

3 結論
以上から,配偶者が生命保険金の受取人になった場合には,生命保険金の非課税限度額により,以下の影響が生じることとなります。

① 配偶者の税額軽減により,配偶者が取得した財産に相続税が課税されないこととなっている場合
・ 相続税の総額については,減額される。
・ 配偶者が取得した財産については,相続税は減額されない(0円のままである)。
   ⇓
  相続税の総額が減額される結果,反射的に,配偶者以外の人に課税される相続税が減額されるに過ぎない。
  相続税の減額効果は,小さい。

② 配偶者の税額軽減を用いても,配偶者が取得した財産に相続税が課税されることとなる場合
・ 相続税の総額については,減額される。
・ 配偶者が取得した財産についても,相続税が減額される。
   ⇓
  配偶者が取得した財産について,相続税が大きく減額されることとなる。
  さらに,相続税の総額が減額される結果,反射的に,配偶者以外の人に課税される相続税も減額される。

松阪の案件でも,配偶者が生命保険金の受取人となっている場合に,相続税の負担がどうなるのかというご質問をお受けすることがあります。
この点については,上記の説明を行い,相続税の負担が一定程度軽減されるとの回答をさせていただいています。

生命保険と相続税対策―①生命保険金の非課税限度額

1 生命保険は相続税対策に利用できるか?
相続税対策のため,生命保険を利用するという話がなされることがあります。
確かに,生命保険には,相続の際に課税される相続税を減額する効果があります。
もっとも,生命保険契約の内容次第では,このような効果は小さくなることがありますし,逆に,相続税の負担が増えてしまうこともあります。
以下では,これらの点を具体的に説明したいと思います。

2 生命保険金の非課税限度額
そもそも,生命保険には,相続税を減額する効果があると言われているのでしょうか?
生命保険金は,みなし相続財産に該当し,相続税の課税対象になります。
もっとも,生命保険金には,非課税限度額がありますので,全額が相続税の課税対象になるわけではありません。
生命保険金の非課税限度額は,以下のとおりです。

500万円×法定相続人数

たとえば,法定相続人が3人の場合は,1500万円の非課税限度額が設定されることとなります。
このため,預貯金5000万円を,預貯金のまま残しておくと,5000万円全額に対して相続税が課税されるのに対し,生命保険契約を組み,ほぼ同額の生命保険金を受け取れるようにしておくと,5000万円-1500万円=3500万円に対してのみ,相続税が課税されることとなるのです。
このように,生命保険金を利用すると,相続税の課税対象が500万円×法定相続人数だけ減額されることとなるため,相続税の減額の効果が生じることとなるのです。

この生命保険金の非課税限度額は,法定相続人数が増えれば増えるほど,500万円ずつ増額されることとなります。
このため,養子縁組を合わせて活用すると,効果的に生命保険金の非課税限度額を増額し,相続税の負担を減額することができます。
ただし,養子については,生命保険金の非課税限度額の計算上,法定相続人数に算入できる人数が,以下のとおり制限されています。
・ 被相続人に実子がいる場合→養子は1人までしか算入できない
・ 被相続人に実子がいない場合→養子は2人までしか算入できない

もっとも,以上は,生命保険金の非課税限度額の制度をうまく利用することができた場合の話です。
生命保険契約の内容次第では,非課税限度額は利用することができないこともあります。
この点については,場合を分けて説明したいと思います。

松阪の案件でも,生命保険についてのご相談をお受けすることは,しばしばあります。
この点については,場合分けをして整理できるようにしておきたいところです。

配偶者居住権(長期)の評価方法3

平成31年度の税制改正によって,配偶者居住権(長期)の評価方法については,かなりの部分が確定したものと思います。
税制改正の評価方法を用いれば,誰が計算したとしても,同じ計算結果になりますので,実務上の有用性は大きいと思います。

もっとも,平成31年度の税制改正によっても,実務上の取扱いが未確定の部分が残っています。
たとえば,以下の点は,未確定の問題として残っているように思います。

被相続人が亡くなり,相続人が配偶者,子A,子Bの3名である場合を考えたいと思います。
遺産は,被相続人の自宅の土地・建物(配偶者が居住),預貯金であったと仮定します。

このような事例で,子Aが土地・建物の所有権を取得し,配偶者が土地・建物の配偶者居住権(長期)を取得したとします。
相続税が課税される場合には,子Aは居住権が設定された土地・建物を取得したものと扱われ,配偶者は居住権を取得したものと扱われます。

ここで考えたいのは,さらに時が経過し,配偶者が亡くなった場合(二次相続に場合)にどうなるかということです。
配偶者が亡くなると,配偶者居住権(長期)は消滅し,子Aは土地・建物の完全な所有権を取得することとなります。
この点を捉えて,配偶者から子Aに対し,居住権に相当する利益の相続が生じたと扱い,相続税が課税されるかどうかについては,まだ明らかになっていません。

個人的には,配偶者居住権(長期)が二次相続でどのように扱われるかは,弁護士も注意を払わなければならない重要な問題だと思っています。
それは,仮に,二次相続で配偶者から子Aへの居住権に相当する利益の相続があったと扱われないとすると,以下のように,配偶者居住権(長期)を遺留分対策に利用できてしまうと思われるからです。

被相続人は,子Aにできるだけ多くの財産を相続させ,子Bからの遺留分侵害額請求をできる限り阻止したいと考えている。
そこで,被相続人は,配偶者に配偶者居住権(長期)を遺贈し,居住権の設定された土地・建物と預貯金を子Aに相続させるとの遺言を作成した。
また,被相続人の配偶者も,すべての財産を子Aに相続させるとの遺言を作成した。
 → 一次相続では,「(土地・建物-居住権)+預貯金」が子Bの遺留分算定の基礎となる。
 → 二次相続では,居住権は子Bの遺留分算定の基礎とならない。
 ⇒ トータルで見ると,居住権の評価額分については,子Bの遺留分算定の基礎となる財産から除外され,その分,子Bからの遺留分侵害額請求を阻止することができる。

このように,今回の改正は,遺留分侵害額請求にも影響を及ぼしかねないものだと思いますので,今後の税制改正も含め,今後の取扱いの変化を注視していく必要があるものと思います。

配偶者居住権(長期)の評価方法2

今回は,被相続人名義の建物に配偶者が居住しており,建物の底地も被相続人名義になっている事例を念頭に置いて,平成31年度税制改正の評価方法を紹介したいと思います。

最初に,居住権が設定された建物とその底地の評価方法は,以下のとおりとされています(居住権自体の評価方法よりも先に,居住権が設定された建物とその底地の評価方法を把握した方が分かりやすいように思います)。

1 土地
  土地の相続税評価額×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(①)
2 建物
  建物の相続税評価額×{(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数}×存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率(②)

土地についての考え方は,おおむね以下のとおりだと思います。
居住権が設定された土地を取得すると,その土地の所有権を得ることとなります。このため,計算の出発点は,「土地の相続税評価額」になります。
ただ,居住権が設定されているため,土地を取得した人が実際にその土地を使用することができるのは,居住権の存続年数が経過してからとなります。つまり,居住権が設定された土地を取得した人は,居住権の存続期間が経過した将来,土地の完全な権利を取得することができる地位をもっているに過ぎないということになります。このため,「存続年数に応じた民法の法定利率による複利現価率」を掛け算し,土地の評価額を減じることとなります。

なお,配偶者居住権(長期)の存続期間が終身の場合は,配偶者の平均余命を存続期間とします。

建物についての考え方も,土地についての考え方と共通しています。
ただ,建物については,老朽化しますので,一定期間が過ぎると経済的価値を著しく失うという違いがあります。このため,建物については,耐用年数を踏まえた調整が行われることとなり,「(残存耐用年数-居住権の存続年数)/残存耐用年数」を乗じる計算が行われることとなります。

建物の耐用年数については,減価償却計算で使用する法定耐用年数(住宅用)に1.5を掛け算し,築年数を引き算することにより算定されます。

存続期間が経過する前に耐用年数が経過してしまう場合は(つまり,残存耐用年数-居住権の存続年数がマイナスになる場合),居住権が設定された建物の評価額は0円になります。

次に,居住権の評価方法は,以下のとおりです。

1 土地
  土地の相続税評価額-上記①
2 建物
  建物の相続税評価額-上記②

つまり,居住権が設定された建物の評価額と居住権を足し算すると,建物全体の評価額と同じになるということです。
土地についても同様の考え方になります。

配偶者居住権(長期)は,相続法改正により設けられた新しい権利ですので,過去にベースとなり得る計算方法が存在しない権利です。
このため,遺産分割の事案,遺留分侵害額請求の事案で,居住権の鑑定評価を行う場合にも,平成31年度税制改正の評価方法が参照される可能性は大いにあるものと思います。
この点で,今回の税制改正の内容は,弁護士として担当する案件にも影響を及ぼす可能性があると思います。

配偶者居住権(長期)の評価方法1

平成31年度の税制改正で,相続税申告の際,配偶者居住権(長期)をどのように評価すべきかが明らかにされました。

配偶者居住権(長期)とは,相続法改正により,新たに認められるようになった権利です。
被相続人が配偶者とともに被相続人名義の建物で生活していた場合,被相続人が亡くなると,配偶者が住んでいる建物についても,遺産分割を行わなければならなくなります。
遺産分割の結果,配偶者が建物を取得できるのであれば問題はないのですが,配偶者が建物を取得できない場合には,配偶者は,これまで住んでいた建物から退去を求められる可能性があります。配偶者の今後の生活のことを考えると,このような事態は避けたいところです。
そこで,改正相続法は,新たに配偶者居住権(長期)を設け,配偶者が,終身または一定の期間,これまで住んでいた建物に居住する権利を主張できるようにしました。
配偶者居住権は,遺産分割(協議,調停,審判),遺言による定め(遺贈)により設定することができます。

このような配偶者居住権(長期)が設定された場合,居住権をどのように評価するか,居住権が設定された建物とその底地をどのように評価するかが問題となります。
居住権が設定された建物とその底地を取得した相続人は,配偶者が居住していますので,建物とその底地を自由に使用することができません。
このため,居住権が設定された建物とその底地については,一定程度減価して計算するのが妥当であると考えられます。
居住権自体も,建物の使用権を主張することができる強力な権利ですので,一定の財産的価値があるものとして評価すべきであると考えられます。

配偶者居住権(長期)の評価については,相続税申告の場面だけではなく,遺産分割の場面,遺留分侵害額請求の場面でも問題となり得ます。
かつては,改正相続法の立法担当者が評価方法についての一定の見解を示していましたが,立法担当者の評価方法は,土地の評価額への言及を欠いたものであり,いささか通用力を欠くと思われるものでした。
このため,個人的には,遺産分割の場面,遺留分侵害額請求の場面でも,平成31年度の税制改正の評価方法が参照される場面が多くなるのではないかと思われます。
このように,弁護士として活動するに当たっても,税制改正の内容を把握しておくべき場面はしばしばあります。

具体的な評価方法については,次回紹介したいと思います。