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相続放棄の影響で注意すべきこと2

「被相続人の父母が相続放棄を行った場合は,後順位の親族である兄弟姉妹が相続人の地位を有することとなる」というのは,一般的な説明の仕方だと思います。
ところが,案件によっては,上記の説明が誤りになる場合があります。
それは,被相続人の祖父母が存命である場合です。
 
一般的には,被相続人の祖父母が存命であることは,ほとんどないと考えて良いでしょう。
しかし,被相続人が若くして亡くなられた場合は,被相続人の父母ばかりか,被相続人の祖父母が存命であることがあります。
このように,被相続人の祖父母が存命である場合に,被相続人の父母が相続放棄を行うと,被相続人の祖父母が相続人の地位を有することとなってしまいます。
 
これは,民法が次のような規定を置いているためです。

民法889条
次に掲げる者は,民法第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には,次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
被相続人の直系尊属,ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。

被相続人の父母と被相続人の祖父母が存命である場合は,被相続人の父母が親等の近い者となりますので,被相続人の父母が相続人となります。
ところが,被相続人の父母が相続放棄を行うと,被相続人の父母は相続人ではなかったこととなりますが,次に親等が近い者が被相続人の祖父母となりますので,被相続人の祖父母が相続人の地位を有することとなってしまうのです。
以上のことは,見落とされがちな点ですので,注意が必要です。
 
なお,以上の話とは異なり,被相続人の子が相続放棄を行った場合には,その子(被相続人の孫)が相続人の地位を有することとなることはありません。
これは,被相続人の孫が相続人となるのは,被相続人の子に代襲原因がある場合に限られるのですが,被相続人の子が相続放棄を行ったことは,法律上,代襲原因とはされていないためです(これに対して,被相続人の子が既に死亡していることは,法律上,代襲原因とされていますので,その子(被相続人の孫)が相続人の地位を有することとなります)。
 
相続放棄については,手続を確実に行えば大丈夫であると言われることがありますが,実際には,見落とされがちな点もあり,注意を払わなければ,思わぬ事態を招いてしまうこともあります。
弁護士として相談をお受けする場合には,見落とされがちな点も想定しつつ,必要な助言を行うことを心掛けなければならないところです。

相続放棄の影響で注意すべきこと1

被相続人に多額の債務が存在する等の理由により,被相続人から一切の財産も負債も引き継ぐことを希望しない場合には,相続放棄を行うことが考えられます。
相続放棄を行う場合には,自分が相続放棄を行うことにより,他の親族が相続人になる可能性があるということに注意する必要があります。

民法では,法定相続人について,以下の規定が置かれています。

1 配偶者
配偶者は常に相続人となる。

2 血族
⑴ 被相続人の子は,第一順位の相続人となる。
※ 被相続人の子が亡くなっており,その子(被相続人の孫)がいる場合は,その子(被相続人の孫)が第一順位の相続人となる。
⑵ 被相続人の父母は,第二順位の相続人となる。
⑶ 被相続人の兄弟姉妹は,第三順位の相続人となる。
※ 被相続人の兄弟姉妹が亡くなっており,その子(被相続人の甥,姪)がいる場合は,その子(被相続人の甥,姪)が第一順位の相続人となる。

 
相続放棄との関係では,先順位の親族が相続放棄を行った場合には,後順位の親族が相続人となります。
たとえば,被相続人の子が相続放棄を行った場合には,被相続人の父母が相続人の地位を有することとなります。そして,被相続人の父母が相続放棄を行った場合には,被相続人の兄弟姉妹が相続人の地位を有することとなります。
 
このように,被相続人の子,被相続人の父母が相続放棄を行った場合には,新たに,後順位の親族が相続人の地位を有することとなることに注意する必要があります。
たとえば,自分が相続放棄を行った場合には,自分の後順位の親族に対し,相続人の地位が生じることを伝える等した方が良いこともあるでしょう。
 
基本的には,弁護士として相続放棄の案件を担当する場合も,上記のような考え方で手続を進めています。
もっとも,相続放棄の案件を多く担当していると,例外的な案件を担当することもあります。
この点については,次回説明を行いたいと思います。