カテゴリー別アーカイブ: 相続放棄

相続放棄と相続財産の管理義務2

このように、従来の民法では、民法940条により、相続放棄をした人が、相続放棄を行った後も、相続財産について管理義務を負うかどうかが問題となり得る場面が広かったと言えます。

もっとも、今後は、このような問題が生じ得る場面は限られてくることとなりそうです。

というのも、令和3年(2021年)の民法改正により、すでに民法940条の改正がなされており、令和5年4月1日以降、改正法の施行が予定されているためです。

このため、令和5年(2023年)4月1日以降は、改正後の民法940条の規定により、相続放棄を行った人の管理責任が決まることとなります。

それでは、改正後の民法940条では、どのような規定がなされているのでしょうか?

改正後の民法940条の条文は、以下のとおりです。

民法940条1項 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

改正に伴う変更点は複数ありますが、ここで着目したいのは、相続財産を保存する義務の範囲が、相続放棄の時に現に占有している財産に限定されているということです。

裏返せば、現に占有している財産でなければ、相続放棄をした人は、相続財産を保存する義務を負わないこととなります。

相続放棄の時に現に占有している財産というと、たとえば、相続放棄の時点で現に居住したり、使用収益(第三者への賃貸を含む)したりしている不動産が該当することとなります。

裏返せば、現に居住したり使用収益したりしていない不動産については、保存の義務を負わないこととなります。

また、相続時点で居住したり使用収益したりしていた不動産であったとしても、相続放棄を行うまでに退去したり使用収益を停止したりした場合には、保存の義務を負わないこととなりそうです。

このように、改正後の民法940条の施行後は、相続放棄をした人が相続財産を保存する義務を負う場面は、かなり限定されることとなりそうです。

このため、改正法の施行後は、相続財産の管理上の心配から、新たに相続人となった人への財産の引き継ぎや、相続財産管理人の選任について、弁護士等が相談をお受けすべき場面も、少なくなる可能性があります。

この点については、改正後の運用面も含めて、注視していく必要がありそうです。

相続放棄と相続財産の管理義務1

ある人が相続放棄を行った場合には、その人は最初から相続人ではなかったものとされます。

その結果、相続放棄を行った人は、被相続人が所有していた財産を取得することができなくなる代わりに、被相続人が負っていた債務についても返済する義務を負わないこととなります。

ところで、最近では、相続放棄を行ったとしても、相続財産の管理義務を負わなくなるわけではないという話がなされることがあります。

最近でも、相続放棄を行った後も財産の管理義務を負うのではないかということを心配されて、弁護士に相談に来られる方がいらっしゃいます。

これは、民法940条1項が、以下のとおり定めているためです。

民法940条1項 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

このように、相続放棄をした後も、相続財産を管理する義務を負わなければならないとされている以上、相続放棄をした後に相続財産について何らかの問題が発生した場合には、相続放棄をした人が法的責任を負うこととなるのではないかということが懸念されるところです。

具体的には、相続放棄後をした後に、相続財産である建物が倒壊したり、火災が発生したりし、近隣住民に損害が生じた場合には、相続放棄をした人が、管理義務を怠ったことを理由として、損害賠償義務を負うこととなるのではないかということが懸念されます。

このような理由から、損害賠償義務を負うことを心配されて、相続放棄をした後の財産管理について相談に来られる方が、しばしばいらっしゃいます。

前提として、民法940条については、以下の解釈がなされています。

① 民法940条は、相続放棄をした人が、相続放棄により新たに相続人となった人との関係で、相続財産を管理する義務を負うものとしているに過ぎないものである。新たに相続人となった人以外との関係で、相続放棄をした人が管理義務を負うことはない。

② 民法940条は、相続放棄をした人が、相続放棄により新たに相続人となった人だけではなく、それ以外との関係でも、相続財産を管理する義務を負うものとしているものである。

①の解釈だと、建物の倒壊や火災により、近隣住民に損害が生じた場合については、相続放棄をした人は、近隣住民との関係では損害賠償義務を負わないという結論になりそうです。

②の解釈だと、相続放棄をした人は、近隣住民との関係でも、損害賠償義務を負うこととなりそうです。

このように、民法940条の解釈次第では、相続放棄をした人が近隣住民に対する損害賠償義務を負うかどうかについての結論が変わってくることとなります。

この点について、裁判所の判断が集積しているわけではなく、①と②のどちらの解釈になるかは、不確定な部分があります。

このため、万全を期するという観点からは、近隣住民との関係でも損害賠償義務を負う可能性があるとの前提のもと、対処策を検討するのが良いのではないかと考えられるところです。

相続放棄後の対処策としては、相続放棄により新たに相続人となった人に連絡し、財産の管理の引き継ぎを行うことが考えられます。 また、相続放棄により相続人が存在しないこととなる場合には、相続財産管理人を選任し、相続財産管理人に財産の管理を引き継ぐことが考えられるところです。

相続放棄と固定資産税

相続放棄を行うと、被相続人が負っている債務を弁済しなくても良くなるという説明がなされることがあります。
ところが、被相続人に未納付の固定資産税があった場合には、注意を要する場合があります。
ここでは、固定資産税について、注意すべきケースを説明したいと思います。

① 被相続人名義の不動産について、相続放棄を行った年度分の固定資産税を納付しなければならない場合
被相続人名義の不動産がある場合、相続放棄の申述が受理されたとしても、受理がなされる前の日を基準日として課税される固定資産税については、納付義務を負うこととなると判断した裁判例があります。
固定資産税の基準日は、毎年の1月1日です。
このため、令和2年1月5日に申述が受理されたのであれば、令和2年1月1日を基準日として課税される固定資産税、つまり、令和2年度の第1期から第4期の固定資産税については、相続放棄をした相続人が納付義務を負うこととなってしまいます(横浜地判平成12年2月21日判例地方自治205号19頁)。
このように、過去の裁判例には、相続人が、相続放棄を行った年度分の固定資産税の納付義務を負うと判断したものがあります。

地方公共団体によっては、相続放棄が受理されれば、相続放棄を行った年度分の固定資産税の納付を求めてこないことも多いですが、過去には、上記の裁判例を引用して、相続放棄を行った年度分の固定資産税の納付を求められた例もあります。

② 被相続人と相続人の共有名義の不動産について、継続的に固定資産税を納付しなければならない場合
被相続人と相続人の共有名義になっている不動産がある場合、相続人の相続放棄が受理されたとしても、相続人は、固定資産税の全額について納付義務を負うこととなります。
これは、地方税法第10条の2が、不動産の共有者は、連帯して固定資産税を納付する義務を負うと定めているためです。
このため、被相続人と相続人の共有名義の不動産については、相続放棄前の未納分だけでなく、相続放棄後の課税分についても、継続して、固定資産税を納付しなければならないこととなります。
三重県でも、このようなケースは多いですので、注意が必要です。

被相続人が亡くなってから3か月の期間後の相続放棄

1 被相続人が亡くなったことを知らなかった場合は,相続放棄はできるのでしょうか?
被相続人との生前の交流が乏しかった場合には,被相続人が亡くなってから長期間が経過するまで,被相続人が亡くなったことを知らないということがあり得ます。
その後,債権者が相続関係を調査し,相続人に対して債務の返済を催告した際に,被相続人が亡くなったことが明らかにをなるということも,しばしばあります。
他には,市町村が相続関係を調査し,相続人に対して固定資産税の納付を求めた際に,被相続人が亡くなったことが判明するということも多いです。

被相続人が亡くなったことを知らずに,被相続人が亡くなってから3か月の期間が経過してしまった場合は,相続放棄はできるのでしょうか?
法律は,相続人が相続の開始があったことを知った日から3か月が,相続放棄を行うかどうかを決定することができる期間(熟慮期間)であると定めています。
裏返せば,被相続人が亡くなったことを知らなければ,いつまでも熟慮期間は経過せず,知ってから3か月以内であれば相続放棄を行うことができるということになります。

2 被相続人が亡くなったことを知らなかった場合の相続放棄の手続では,どのようなことに気をつけなければならないのでしょうか?
被相続人が亡くなったことを知らなかった場合に相続放棄の手続を進めるときには,いくつか気をつけるべき点があります。
家庭裁判所は,おおむね,戸籍上,被相続人が亡くなってから3か月以内に相続放棄の申述がなされているかどうかを確認し,3か月の期間が経過した後に相続放棄の申述がなされている場合には,本当に被相続人が亡くなったことを知らなかったのかの確認をしてきます。
たとえば,家庭裁判所から,追加の資料を提出することを求められることがありますし,書面での質問がなされることもあります。
判断に迷う場合には,家庭裁判所への出頭を求められ,裁判官から直接口頭での質問がなされることもあります。
この時,出頭しなければならない裁判所は,被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です(被相続人が松阪でなくなった場合は,家庭裁判所の松阪支部)。
このため,被相続人の最後の住所地次第では,遠方の裁判所への出頭を求められる可能性もあります。

以上から,被相続人が亡くなったことを知らなかった場合の相続放棄手続では,申述の際,時間がたってから被相続人が亡くなったことを知った事情を明らかにすることも検討した方が良いでしょう。

たとえば,被相続人が孤独死しており,死亡の事実が判明するまでに長期間が経過してしまうことがあります。
このような場合は,戸籍上,死亡日が特定されていないことや,死亡の届出がなされるまでに長期間が経過していることがほとんどでしょうから,申述書において,この点を指摘しつつ,死亡の事実が判明した経緯を記載することが考えられます。

また,被相続人との交流がなく,死亡の事実が伝えられることがなかったところ,債権者から相続債務の返済を求める旨の通知がなされ,初めて,被相続人が亡くなっていたことが判明することがあります。
このような場合には,申述書に被相続人と没交渉になっていたことを記載するとともに,債権者からの通知書のコピーを資料として提出することが考えられます。

3 相続債務の存在を知らなかった場合は,相続放棄はできるのでしょうか?
被相続人が亡くなったことは知っていたものの,相続債務の存在を知らなかったという場合があります。
このような場合には,債権者から,相続債務の返済を求める通知がなされて,初めて,相続債務の存在を知ることが多いです。
このような債権者からの通知は,被相続人が亡くなってから3か月以上経過してからなされることがしばしばあります。
このように,相続債務の存在を知らずに3か月が経過してしまった場合には,相続放棄は一切認められなくなってしまうのでしょうか?

この点について,最高裁は,被相続人に相続財産が全く存在しないと信じており,かつ,相続人においてこのように信じることについて相当の理由がある場合には,熟慮期間は,相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識し得べき時から起算すると判断しています。
このように,最高裁の判断基準からすると,相続財産が全く存在しないと信じていた場合については,被相続人が亡くなったことを知ってから3か月以上が経過していたとしても,相続放棄が認められる可能性があります。

4 相続財産が存在することを知っていた場合には,相続放棄は一切認められなくなるのでしょうか?
最高裁は,相続財産の存在を全く知らなかった場合には,熟慮期間は,相続財産の存在を知った時から起算するとしています。
ところで,現実には,相続財産の一部(たとえば,土地等)の存在を知っていたものの,相続債務の存在を知ることなく,3か月の期間が経過してしまうということがあり得ます。
そして,債権者からの通知がなされて,初めて,相続債務の存在を知ることとなります。
このような場合には,相続債務の存在を知る前から,相続財産が存在すること自体は認識していたわけですから,最高裁の判断に従えば,相続放棄は認められないということになりそうです。

ところが,このような場合であっても,下級審(家庭裁判所,高等裁判所)は,相続放棄を認める可能性があります。
過去の裁判例には,相続人が相続財産の一部を知っていた場合でも,自己が取得すべき財産がないと信じていた事例で,相続債務が存在しないと信じており,かつ,そのように信じたことについて相当の理由があると認められる場合は,熟慮期間は,相続債務の存在を認識した時または通常これを認識し得べき時から起算するとしたものがあります。
このような判断がなされた例としては,以下のものがあります。
① 相続財産の存在を知っていたものの,その評価額がわずかであると認識していた例
② 相続財産の存在を知っていたものの,他の相続人が相続すべきものであり,自分が相続すべき財産はないと信じていた例

このように,裁判所の判断次第では,相続債務の存在を知ってから3か月以内であれば,相続放棄が認められる可能性があります。
もっとも,相続放棄が認められるかどうかはケースバイケースですので,弁護士にご相談いただいた方が良いでしょう。

5 相続債務の存在を知らなかった場合の相続放棄の手続では,どのようなことに気をつけなければならないのでしょうか?
過去の裁判例を踏まえると,相続債務の存在を知らなかった場合については,本当に相続財産の存在を知らなかったのか,相続財産が存在しないと信じたことについて相当の理由が存在するのかが問題になります。

この点を確認するため,家庭裁判所は,追加で資料の提出を求めたり,書面で質問を行ったりします。
判断に迷う場合には,家庭裁判所への出頭を求められ,直接,口頭で裁判官に対して説明を行うことを求められることもあります。

これらの点を踏まえると,やはり,申述の際,上記の事情を説明することも検討した方が良いでしょう。
たとえば,生前,被相続人との交流が乏しかったことを説明することにより,相続財産の存在を知らなかったことや,相当の理由が存在することを明らかにすることができるでしょう。
また,債権者からの相続債務の返済を求める書面のコピーを提出することにより,初めて相続債務の送付を知った日を明らかにすることができるでしょう。

熟慮期間(相続放棄をするかどうかを決める期間)の延長

1 熟慮期間を延長することはできないのでしょうか?
法律上,熟慮期間は,相続があったことを知った時から3か月以内と定められています。
ところが,実際には,被相続人の財産や債務の内容が不明である等の理由により,3か月の期間では,相続放棄をするかどうかを決めることができないことがあります。
このような場合には,家庭裁判所において,相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立を行うことにより,熟慮期間を延長することができます。

2 どのような場合に熟慮期間の延長が認められるのでしょうか?
相続の承認又は放棄の期間の伸長の 申立がなされたからと言って,家庭裁判所は,必ず,期間の伸長を認めるわけではありません。
たとえば,過去には,以下の一般論を述べた裁判例も存在しています。

「(熟慮)期間の伸長の申立を審理するに当たっては,相続財産の構成の複雑性,所在地,相続人の海外や遠隔地所在の状況のみならず,相続財産の積極,消極財産の存在…等を考慮して審理するを要する」

このため,期間の伸長を認めてもらうためには,相続財産や債務の内容を調査する必要性等を具体的に記載する必要があります。
家庭裁判所においてこうした必要性が認められた場合に,初めて,熟慮期間の延長が認められることとなるのです。

3 熟慮期間 は,どれくらい延長されるのでしょうか?
相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立が認められた場合に,どれくらいの期間熟慮期間が延長されるかについては,法律の定めはありません。
一般に,家庭裁判所は,相続財産や債務の内容の調査の必要性,調査に要する期間等を考慮し,どれくらいの期間熟慮期間を延長するかを決定すると言われています。
もっとも,実務上は,おおむねさらに3か月間,熟慮期間の延長を認める傾向にあります。

4 熟慮期間を再延長することはできないのでしょうか?
たとえば,3か月間熟慮期間が延長されたとしても,延長された期間内では,相続財産,債務の調査が完了せず,さらに調査を尽くさなければ,相続放棄を行うかどうかを判断できないことがあります。
このような場合には,どうすれば良いのでしょうか?

法律上は,特別の事情がある場合には,熟慮期間の再延長,再々延長が認められています。
もっとも,調査の必要性がある場合に限って延長が認められるのですから,再延長,再々延長が認められるは,特別の事情がある場3回の合に限られます。
このため,再延長,再々延長の申立に当たっては,延長された期間で調査を行ったが,調査を尽くすことができなかったこと,今後,どのような調査を予定しているか等を具体的に記載すべきでしょう。

このように,再延長,再々延長については,認められない可能性があるということに注意すべきです。
調査を尽くしても,どうしても債務超過であるかどうかが判断できず,相続放棄を行うかどうかの結論が出せない場合には,相続人全員で限定承認を行うこと等も検討した方が良いでしょう。

5 熟慮期間の延長の申立は,どのような手続で行うのでしょうか?
熟慮期間の延長の申立は,家庭裁判所に相続の承認又は放棄の期間の伸長の申立書を提出することにより行います。
管轄裁判所は,被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所です。
たとえば,被相続人の最後の住所地が松阪である場合は,家庭裁判所の松阪支部が管轄裁判所になります。

申立書は,3か月の熟慮期間内に提出する必要があります。
期間内に申立書が家庭裁判所に届く必要がありますので,不安な場合は,直接,家庭裁判所の窓口へ持って行った方が良いでしょう。

申立に際しては,申立書以外に,被相続人の死亡の記載のある戸籍,被相続人の住民票の除票(除籍の附票でも差し支えありません),申立を行う方の戸籍です。
相続放棄の申述と同じく,どうしても必要書類の準備が間に合わない場合は,申立書のみを3か月の熟慮期間内に提出し,必要書類を期間経過後に提出することも検討しましょう。

被相続人の父母が相続放棄を行った場合,次に相続人になるのは誰でしょうか?

被相続人が若くして亡くなった場合,被相続人の父母が存命であることがあります。
そして,被相続人が多額の相続債務を負っていたときは,被相続人の父母が相続放棄を行うことがあります。
それでは,被相続人の父母が相続放棄を行った場合,次に相続人となるのは誰なのでしょうか?

このような質問を行うと,次に相続人となるのは,被相続人の兄弟姉妹であり,被相続人の兄弟姉妹が存命でない場合は,被相続人の甥姪であるとの回答がなされることがあります。
しかし,このような回答は,完全な誤りとなることがあります。
被相続人の祖父母もまた存命である場合は,被相続人の父母が相続放棄を行うと,被相続人の祖父母が相続人となるためです。

民法889条は,法定相続人の定まり方について,次のような規定を置いています。

次に掲げる者は,・・・次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
被相続人の直系尊属。ただし,親等の異なる者の間では,その近い者を先にする。

そして,被相続人の父母が相続放棄を行うと,被相続人の父母は初めから相続人ではなかったこととなります。
そうすると,上記のただし以下の部分により,次に親等の近い者である被相続人の父母が相続人になることとなるのです。

このように,被相続人の祖父母が存命である場合は,被相続人の祖父母が相続人となる可能性があります。
この場合も,被相続人の相続放棄の申述が受理されてから3か月の熟慮期間内に相続放棄を行う必要があるため,あらかじめ,被相続人の祖父母に説明を行っておいた方が良いこともあるでしょう。

念のため付言すると,被相続人の子が相続放棄を行った場合には,被相続人の子の子(つまり,被相続人の孫)は次の法定相続人にはなりません。
被相続人の子の子が相続人となるのは,民法887条2項により,被相続人の子に代襲相続が発生した場合に限られています。
そして,代襲相続が発生する原因としては,被相続人の子の死亡,相続欠格,相続廃除が挙げられていますが,相続放棄は挙げられていません。
このため,被相続人の子が相続放棄を行ったとしても,代襲相続は発生せず,被相続人の子の子が相続人となることはないこととなります。

この点は,弁護士でも誤った回答をすることがある部分ですでの,注意が必要です。

相続放棄と葬式費用

1 相続財産から葬式費用を支払った場合は,相続放棄を行うことができなくなるのでしょうか?
相続財産である預貯金から出金を行い,これを費消してしまうと,単純承認事由である相続財産の処分に当たり,相続放棄を行うことができなくなってしまいます。
たとえ,預貯金を費消した時点では相続債務の存在を知らなかったとしても,単純承認事由である相続財産の処分に当たる以上は,もはや相続放棄を行う余地はないこととなってしまうのです。

それでは,相続財産である預貯金を出金し,葬式費用の支払に充ててしまった場合はどうなるのでしょうか?
このような場合に,あとから相続債務の存在が明らかになったとしても,相続放棄を行うことはできなくなってしまうのでしょうか?
このように,葬式費用の支払が行われたあとに相続債務の存在が発覚し,相続放棄の申述がなされた場合に関しては,過去の裁判例は,葬式費用の支払は単純承認事由には当たらないとし,相続放棄の申述を受理しています。
その理由としては,葬儀が社会的儀式として必要性が高いものであること,葬儀を執り行うためには必ず相当額の支出を伴うものであること等が挙げられています。

以上から,相続財産である預貯金から葬儀費用の支出を行ったとしても,相続放棄が認められる可能性があることとなります。

2 相続放棄ができるかどうかの場面では,葬式費用の支出として認められる範囲はどこまでなのでしょうか?
この点については,過去の裁判例ごとに判断内容が少しずつ異なっているため,明確な回答をし難いところではあります。
過去の裁判例の中には,身分相応の遺族として当然営むべき程度の葬式のための費用については,相続財産から支出することは単純承認事由にはならないと判断したものがあります。
このような考え方に従えば,葬式費用であれば,いくらであっても支出することが許容されるわけではなく,一般的な葬式費用の範囲に収まる場合に限り,相続放棄が認められることとなります。

3 葬式費用以外に,仏壇,墓石の購入費用を相続財産から支払った場合にも,相続放棄を行うことはできるのでしょうか?
相続財産である預貯金から,仏壇,墓石の購入費用を支払ってしまった場合であっても,相続放棄を行うことはできるのでしょうか?
この点について,過去の裁判例には,仏壇や墓石を購入することは,我が国の通常の慣例であること,相続債務があることが分からない場合に,遺族が被相続人の預貯金を利用することは自然なことであることを理由に,仏壇や墓石を購入することが相続財産の処分には当たらないと,相続放棄を認めたしたものがあります。
この裁判例では,購入した仏壇や墓石が社会的にみて不相当に高額のものとはいえず,購入費用の不足分を自己負担したといった事情があることを踏まえて,仏壇や墓石の購入費用が相続財産の処分に当たるとは断定できないとの判断がなされました。

このように,仏壇,墓石の購入費用についても,相続放棄が認められる可能性はあります。
ただし,上記の事例では,一定の事情があることを考慮した上で相続財産の処分に当たるとは断定できないとの判断を行っていますので,相続放棄が認められるかどうかはケースバイケースであると考えた方が良いでしょう。

なお,当弁護士法人がお受けした案件の中には,相続財産である預貯金を戒名代,墓石の彫り代の支払に充てた行為について,相続財産の処分には当たらないとの判断がなされたものもあります。

4 相続放棄の手続を進めながら,相続財産である預貯金から葬式費用を支払うことは許容されるのでしょうか?
この点について,明確な判断を行った裁判例は見当たりません。
ただ,注意しなければならないのは,葬式費用の支出が相続財産の処分には当たらないとした裁判例も,仏壇や墓石の購入費用の支出が相続財産の処分には当たらないと判断した裁判例も,基本的には,支出した後に相続債務の存在が発覚し,相続放棄を行うことを決意するに至った案件であるということです。
したがって,相続債務の存在を熟知し,相続放棄の手続を進めている最中に,葬式費用を支出する場合とは,事案が異なっているため,同じような判断がなされるとは限らないということができます。
以上から,相続放棄の手続を進めている最中に,相続財産である預貯金から葬式費用を支払うことは,避けた方が良いという結論になります。

相続放棄と生命保険

1 相続放棄を行ったとしても,生命保険金を受け取ることができるのでしょうか?
相続放棄を行った場合には,初めから相続人ではなかったこととなります。
このため,相続人のマイナスの債務を引き継ぐことを避けられる反面,相続人のプラスの財産も引き継ぐことができないこととなります。

ところで,被相続人が亡くなった際に権利が発生するものとして,生命保険金があります。
相続放棄を行った場合に,生命保険金を受け取る権利はどうなるのでしょうか?
結論としては,受取人が誰に指定されているかによって,変わってくることとなります。

2 特定の人が受取人に指定されている場合
特定の人が生命保険金の受取人に指定されている場合には,その人が生命保険金を受け取ることができます。
この生命保険金は,生命保険契約によって受け取る権利が発生するものであり,相続財産ではありません。
したがって,その人が相続放棄を行ったとしても,生命保険金の受取人に指定されている以上は,生命保険金を受け取ることができることとなります。

3 被相続人が受取人に指定されている場合
次に,被相続人が受取人に指定されていることがあります。
この場合には,被相続人が生命保険金を受け取る権利を有していることとなります。
そして,被相続人の有している生命保険金を受け取る権利は,相続財産になります。
したがって,相続人が相続放棄を行った場合には,相続人は,生命保険金を受け取ることができないこととなります。

4 「相続人」が受取人に指定されている場合
他には,「相続人」を受取人に指定するとの契約がなされることがあります。
この場合には,生命保険契約の解釈上,法定相続人が受取人に指定されているものと扱われます。
つまり,相続放棄を行っているかどうかは度外視して,法定相続人が生命保険金を受け取ることができると解釈されています。
したがって,相続人が相続放棄を行ったとしても,法定相続人である以上は,生命保険金を受け取ることができることとなります。

相続についてお困りの方は,ぜひ弁護士法人心へご相談ください。

再転相続の場合の相続放棄②

今回も,次のような相続関係を前提としたいと思います。
① Aが死亡し,BがAの相続人となった。
② その後,Bが死亡し,CがBの相続人となった。

次に検討しなければならないのは,①の相続に限って相続放棄を行うことを希望する場合には,いつまでに相続放棄の申述を行わなければならないかということです。

相続放棄については,熟慮期間内に行わなければならないとされており,熟慮期間経過後には,相続放棄が受理されることはありません。
基本的には,熟慮期間は,相続の開始があったことを知った時から3か月以内と定められています。
ただし,再転相続の場合には,民法は,以下のような特別の規定を置いています。

第916条 相続人が相続の承認又は放棄をしないで死亡したときは,前条第1項の期間(熟慮期間)は,その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から起算する。

このように,再転相続の場合について,民法は,Cが自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月間,相続放棄が可能であるとの規定を置いていました。

ところが,この民法の規定には,重大な問題があります。
それは,「Cが自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月が,「Cが①の相続の開始があったこと(Aが死亡したこと等)を知った時」から3か月であるのか,「Cが②の相続の開始があったこと(Bが死亡したこと等)を知った時」から3か月であるのかが,条文の書き方からは分からないということです。

この問題について,これまでの通説は,「Cが②の相続があったこと(Bが死亡したこと等)を知った時」から3か月間であるとしていました。
通説は,「Bが死亡したことを知った以上,CはBの遺産についての調査を行うであろう,その過程でCはAの遺産についての情報を得ることもできるであろう,だから,熟慮期間として,Bが死亡してから3か月とするのが妥当である」と考えていたのです。

もっとも,通説の解釈は,Cにとっては酷であることがありました。
AがBと疎遠であり,普段連絡をとることがないような場合を考えてみましょう。
このような場合には,Cが,Bが死亡したことを知り,Bの遺産についての調査を行ったからとしても,必ずしも,Cが,Aの遺産についての情報を得ることが期待できるとは限りません。
事案によっては,BもCも,Aの死亡の事実すら知らないこともあり得ます。
にもかかわらず,CがAの遺産についての情報を得ることを期待するのは,現実的ではありません。

そこで,今回,8月9日付の最高裁の判決は,通説とは異なる立場,つまり,Cが再転相続人になったことを知った時から3か月間,Cは,再転相続の相続放棄を行うことができるとの判断を行いました。
Cは,①の相続があったこと(Aが死亡したこと等)を知ってから3か月が経過するまでは,再転相続の熟慮期間が経過することはなく,再転相続の相続放棄を行うことができるということになります。

このように,今回の最高裁の判決は,これまでの通説とは異なる判断を行ったものであり,重要なものです。
弁護士としては,このような判決が出るに至った背景も含め,理解しておきたいものです。

松阪で相続放棄をお考えの方はこちらをご覧ください。

再転相続の場合の相続放棄①

8月9日付で,再転相続の場合の相続放棄についての最高裁の判決が出ました。

再転相続とは,以下のような場合のことを言います。
① Aが死亡し,BがAの相続人となった。
② その後,Bが死亡し,CがBの相続人となった。

①の相続により,BはAの相続人である地位を有することとなるのですが,②の相続により,このAの相続人である地位が,Cへ引き継がれることとなります。
このように,Aの相続人である地位がBからCへ引き継がれることを,再転相続と言います。

それでは,どのような場合に,相続放棄が問題となるのでしょうか。
考えなければならないのは,Aに多額の負債があったり,管理が困難な遺産があったりする場合です。
相続人としては,Aの遺産を引き継ぎたくないと考えることもあろうかと思います。

このような場合,Bが,存命である間に①の相続について相続放棄を行っていれば,BはAの相続人である地位を有しないこととなりますので,②の相続があったとしても,当然,Cは,Aの相続人である地位を引き継ぐことはないこととなります。

問題となるのは,Bが,存命である間に①の相続についての相続放棄を行っていなかった場合です。
Cは,どのようにすれば,Aの相続人である地位を引き継がずに済むのでしょうか。

1つ目の回答としては,Cが,②の相続について相続放棄を行い,Bの相続人である地位を有しないこととしてしまえば良いというものが考えられます。

もっとも,現実には,Cとしては,②の相続について相続放棄を行うことは避けたいと考えることがあります。
それは,Aには多額の債務がある一方,Bにはプラスの財産があるため,②の相続について相続放棄を行うことは避けたいという場合です。
また,Bから自宅不動産を引き継がなければならない場合も,同様に,②の相続について相続放棄を行うことは避けなければならないでしょう。

このように,②の相続について相続放棄を行うことは避けたい場合には,次の回答を用意する必要があります。
それは,Cが,①の相続に限り,相続放棄を行うことです。
これが,再転相続の場合の相続放棄になります。

このように,②の相続について相続放棄を行うことは避けたいが,①の相続に限って相続放棄を行うことを希望する場合に,再転相続の問題が生じてくることとなります。
弁護士として相談をお受けする場合にも,このような相談をお受けすることは,しばしばあります。

当法人の集合写真を更新しました。