カテゴリー別アーカイブ: 相続の生前対策

相続時精算課税制度についての改正①

今年(令和6年)1月1日から、相続時精算課税制度の改正がなされることとなりました。

従来の相続時精算課税制度は、相続時精算課税選択届出書を提出することにより、相続時精算課税選択届出書を提出した年度以降は、累計2500万円まで、贈与税が非課税になる制度でした。
他方で、従来の相続時精算課税制度では、相続時精算課税選択届出書を提出した年度以降になされた贈与については、全額が相続税の課税対象とされてしまいました。
従来は、提出した年度までは何年でも遡って、全額が相続税の課税対象となってしまっていましたので、メリットが小さく、相続税の負担がむしろ増加してしまうこともある制度であると考えられていました。

この相続時精算課税制度が、改正により、大きくルールが変わることとなりました。
最も大きいと考えられる変更点は、相続時精算課税選択届出書を提出した年度以降は、年間110万円まで、基礎控除の枠が設定されることとなり、非課税とされたことです。
相続時精算課税制度を利用すれば、年間110万円までは、贈与税も相続税も課税されないこととなるのです。
また、年間110万円の基礎控除の非課税だけを利用したいと場合は、相続時精算課税選択届出書を提出する必要はありますが、その後の贈与税の申告は不要となりましたので、手続の負担もかなり少ないと言うことができます。

この改正ルールについては、今後、いわゆる生前の相続税対策で広く有効活用することができると考えられます。
相続時精算課税選択届出書を提出することにより、毎年110万円の非課税枠が設定され、資産課税の負担なく、少しずつ、相続税の課税対象となる財産を減らすことができるからです。
このため、今後は、いわゆる生前の相続税対策で、相続時精算課税制度が利用される場面が増えてくるのではないかと思います。
三重県の案件でも、このような改正ルールについてのご相談を受けることが増えてきているように思います。
とはいえ、まだまだ知らない方も多いと感じられるところではありますので、詳しいことをお知りになりたい場合は、お近くの専門家にご相談いただけましたらと思います。

贈与加算についての改正②

令和6年以降も、相続税の贈与加算の対象から外れてくる贈与の2つ目は、以下のとおりです。

② 相続人に対する相続時精算課税制度を用いた贈与

相続人に対する贈与であっても、相続時精算課税制度を用いて贈与を行うのであれば、年間110万円までは、過去7年間になされた贈与であってもら相続税の課税価格に含めなくても良いこととなっています。

相続時精算課税制度は、生前贈与について、一定の届出を行うことにより、ある程度の金額までは、贈与税が課税されず、代わりに相続税の課税がなされることとなる制度です。加えて、先述の年間110万円までは、過去7年間になされた贈与であっても、相続税の課税もなされないこととなり、税金の負担なく、財産を子の世代に移転することができます。

生前贈与により相続財産が減少することを念頭に置いて、相続税対策を行う場合も、相続人となる予定の人に対する贈与については、相続税精算課税制度を用いて贈与すれば、過去7年間になされた贈与を相続税の課税対象から外すことができることとなります。

このため、令和6年以降は、相続人に対する贈与は、相続時精算課税制度を用いて行った方が良いと考えられます。

相続時精算課税制度を利用する場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択届出書を税務署に提出します。

提出先の税務署は、贈与を受ける人の住所地を管轄する税務署です。

贈与を受けた年の翌年の3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出する必要があり、この期限を過ぎてしまうと、相続時精算課税制度を利用することはできませんので、注意が必要です。

一度、相続時精算課税選択届出書を提出すると、翌年以降は、改めて届出書を提出しなくても、相続時精算課税制度を用いて贈与を行うことができます。

なお、年間110万円までの贈与であれば、贈与税の申告を行わなくても、相続時精算課税の年間110万円の非課税枠を利用することができます(他方、累計2500万円の非課税枠については、申告が必要となっています)。

ご相談をご希望の方は、弁護士法人心へお気軽にお問い合わせください。

贈与加算についての改正➀

相続税は、相続時点で存在した財産だけでなく、生前贈与済みの財産にも課税されます。

かつては、相続人に対し、被相続人が亡くなった日の3年前から、被相続人が亡くなった日までの間に贈与された財産については、相続税の課税価格に含めることとされていました、

この点が、今年(令和6年)から法改正されることとなり、相続人に対し、被相続人が亡くなった日の7年前から、被相続人が亡くなった日までの間に贈与された財産が、相続税の課税価格に含まれることとなりました。

被相続人が亡くなった日の7年前から、被相続人が亡くなった日の3年前になされた贈与については、合計で100万円の非課税枠(毎年100万円ではなく、4年間の合計100万円までが非課税となります)があるものの、非課税枠を超える金額については、7年も前に遡り、贈与されたはずの財産に相続税が課税されることとなります。

よく、贈与を行うと、相続財産を減らすことができ、相続税を減額できるという話がなされることがあります。

確かに、こうした「相続税対策」が功を奏することもありますが、実際には、贈与された財産についても、かなりの部分まで、相続税の課税対象に含まれることとなっていますので、この点を意識しないと、対策をしたはずなのに何の意味もなかったという事態を招きかねません。

それでは、どのような贈与であれば、相続税の課税対象から外れてくるのでしょうか?

令和6年以降の法改正を踏まえると、以下の贈与であれば、相続税の課税対象から外れてくることとなります。

⑴ 相続人以外に対する贈与

制度上は、相続人に対して過去7年間になされた贈与が、相続税の課税価格に含まれることとなっています。

裏返せば、相続人以外に対して贈与すれば、相続税の課税価格には含まれないこととなります。

たとえば、相続人の配偶者や相続人の子に対し、贈与を行えば、過去7年間に贈与されたものであっても、相続税の課税価格には含まれないこととなります。

ただし、相続人の配偶者や相続人の子が、被相続人と養子縁組を行っている場合は、これらの人も相続人に含まれてしまいますので、7年間遡って贈与財産に対する相続税の課税がなされることとなってしまいます。

これらの人に年間110万円以下で贈与を行えば、連年贈与との認定がなされない限り、贈与税も課税されません。

ただ、一般的な贈与でも注意すべきことではありますが、こうした贈与を行う場合には、特に注意を行うべき点があります。

それは、相続人の配偶者や相続人の子に対する贈与が実態を伴っているものであるかどうかです。

たとえば、相続人の子名義の口座に毎年入金しているものの、相続人の子は入金の事実すら知らないといった場合は、贈与の実態がないと判断される可能性があります。

他にも、相続人の子が三重県には住んでいないのに、三重県にしか支店が存在しない銀行に入金されているような場合は、相続人の子が自由に出入金を行うことが困難である可能性が高いため、相続人の子に対する贈与の実態がないと判断されるおそれがあります。

また、実態としては、相続人の子に対する贈与ではなく、相続人に対する贈与であると判断される恐れもあります。

このような判断がなされるリスクを避けるためには、①きちんと、被相続人と相続人の配偶者や相続人の子との合意に基づき、贈与を行う(贈与契約者を作成する等)、②贈与された財産は、相続人の配偶者や相続人の子が個人的な使途に利用している、③贈与された預貯金の通帳やカード、証書については、相続人の子や相続人の配偶者自身が管理している等、相続人の子や相続人の配偶者に対する贈与の実態を備えている必要があるでしょう。

詳しくは相続税に詳しい弁護士、税理士にご相談ください。

アパートの贈与2

それでは、どのような場合に、通常の贈与ではなく、負担付贈与と扱われることとなるのでしょうか。

負担付贈与は、贈与を受ける人が一定の負担を負うことを条件に、財産の贈与が行われることを言います。

分かりやすいのは、贈与の際に、一定の経済的負担を負う場合です。
たとえば、贈与を受けた人が贈与をしてくれた人に対して、今後の生活費を支払うことを約束する場合です。

見逃されるおそれがあるのは、アパートローンの残債務がある場合に、アパートを子に贈与するとともに、今後のアパートローンを子が返済することとする場合です。
感覚的な話としては、贈与されて以降は、アパートの賃料は子が取得することとなりますので、アパートローンの返済を子が行うのは自然なことに見えます。
ところが、税との関係では、子がアパートローンを返済することを条件に、アパートの贈与を受けることとなりますので、負担付贈与であるとの評価がなされることとなります。
このため、時価により、アパートの評価額を算定し、贈与税と相続税(相続時精算課税制度を用いた場合)のを納付する必要があることとなります。

以上から、アパートローンの残債務がある場合は、残債務を一括返済し、アパートの贈与をするだけにしてしまうこと等を検討した方が良いこととなります。

分かりにくいのは、敷金がある場合です。
アパートの贈与がなされると、敷金については、未払賃料があると未払賃料に充当されますが、残額については、譲受人に引き継がれます。昭和44年の最高裁の判決がこのような結論を述べているからです。
このため、子へのアパートの贈与がなされると、敷金の返還義務についても、子に引き継がれることとなります。
これは、敷金返還義務の負担付の贈与と評価されますので、アパートについては、時価での評価を行わなければならないこととなってしまいます。

このような事態を避けるには、アパートの贈与と同時に、敷金相当額の金銭も贈与することとし、実質的には敷金返還義務の負担のない贈与であるとの評価をしてもらう必要があります。

このように、弁護士の感覚では当然の処理であったとしても、税金のと関係では思わね結果を招いてしまうこともあります。
資産の移転についての契約書作成に際しては、税金がどのように課税されるかも合わせて検証することが推奨されます。

アパートの贈与1

相続税対策のため、アパートの贈与が行われることがあります。
アパートを所有し続けると、毎月の賃料収入が発生し続けることとなります。
賃料収入が積み上がると、相続の対象となる財産が増加し、相続税の額が多額になる可能性があります。
こうした事態を避けるため、アパートを生前に贈与し、子の名義に変更してしまうことがあります。
子の名義に変更すれば、その後の賃料収入は子が取得することとなりますので、相続の対象となる財産の増加を避けられる可能性があります。
このような理由から、アパートの贈与は、相続税対策になり得るとされています。

ただ、アパートを贈与となると、多額の財産の贈与となりますので、今度は、多額の贈与税が課税されることとなります。
このような贈与税の課税を避けるため、相続時精算課税制度が同時に用いられることも多いです。
三重県の案件でも、相続時精算課税制度を用いている例は、たまに見かけます。

ところで、アパートの贈与を行うに当たっては、注意しなければならないことがあります。
それは、税負担との関係では、負担付贈与と扱われることを避けた方が良いということです。

前提として、負担付贈与は、贈与を受ける人が一定の負担を負うことを条件に、財産の贈与が行われることを言います。

贈与の際には、土地や建物といった財産の評価を行った上で、贈与税の課税額を算定することとなります。
このとき、通常の贈与であれば、財産の評価は相続税評価額を用いることができます。
したがって、たとえば、土地については、路線価方式または倍率方式により評価が行われることとなりますので、おおむね時価の8割程度に収めることができることが多いです。

これに対して、負担付贈与の場合は、財産の評価は通常の取引価額により行われます。
したがって、土地についても、時価のままで評価が行われることとなり、高額になりがちです。

このように、負担付贈与と扱われた場合は、財産の評価が高額になりがちですので、課税される金額も高額になりがちとなります。
この点を踏まえると、負担付贈与と扱われることは避けたいということになるでしょう。