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戸籍の焼失1

親族関係を確認する場合,戸籍を辿る方法をとるのが一般的です。
裁判手続で親族関係を証明する場合にも,亡くなられた方の一生分の戸籍を取得することになります。

相続関係の戸籍を取得すると,役所から,しばしば,戸籍が焼失したため残っていませんと言われることがあります。
津市で昭和の初め頃の戸籍を取得する場合,焼失していると言われることがあるようです(たとえば,松阪市の案件でも,関係者が住所を移動しているため,他市町村の戸籍を取らなければならないことがしばしばあります)。
どうも,過去に,戦争中の火災(昭和20年7月の空襲が原因のようです)により,津市の本庁で保管していた戸籍が焼失してしまったことがあるようです。

このように,戸籍が戦災等により焼失した場合,役所は戸籍を再製することとなります。
焼失してしまった戸籍を,新たに作り直すことになるのです。
このような場合,焼失してしまった戸籍は,役所に残ってないわけですから,戸籍を再製するためには,焼失前の戸籍の内容がどのようなものであったのかについて,情報収集を行わなければならないこととなるのです。
親族関係についての情報を持っているのは,当の親族本人になりますので,役所は,親族関係について申出を行うよう求めることとなります。
そして,親族関係についての申出がなされれば,申出の内容を反映して,新たに戸籍を再製することができるのですが,申出がなされなかった部分については,戸籍を再製することができなくなってしまうのです。

津市でも,昭和22年頃に,親族関係についての申出を受けたものの,一定程度申出がなされなかった部分があり,このため,焼失した昭和の初め頃の戸籍が残っていない状態になっているのです。

このような理由から,戸籍を辿った結果,曾祖父母の代までさかのぼることができたものの,その兄弟姉妹の戸籍が途中から焼失してしており,曾祖父母の兄弟姉妹の子孫がいるのかどうかが把握できないということが,しばしばあります。

遺産分割協議後の紛争2

遺産分割協議には相続人全員が参加する必要がありますが,場合によっては,不可抗力により,相続人の一部を除いて遺産分割協議をしてしまうこともあります。
被相続人の子が相続開始後に認知を受けた場合がこれに当たります。

男女が結婚していない場合,法律上,母子関係は,出産により当然発生するとされていますが,父子関係は,基本的に,父から認知がされなければ,発生しないものとされています。
そして,父が存命の場合は,父から任意に認知することができますし,子から父に対し強制認知の請求を行うことも認められています。
他方,父が存命でない場合は,子は父に対して強制認知の請求をすることができませんので,検察官に対して認知の請求をすることとなります。
これが死後認知と呼ばれるものです。

このように,死後認知がなされた場合は,他の相続人から見ると,突然,相続人の人数が増えたとなる場合があります。
このような場合であっても,遺産分割をやり直さなければならないとなると,法的安定性が害されることとなると考えられています。
そこで,死後認知が行われた場合には,特別に,すでに行われた遺産分割は有効とされ,認知者された相続人は価額のみの支払を請求することができると定められています。

遺産分割協議後の紛争1

弁護士等の専門家が関与することなく遺産分割協議を行った場合,後々問題が生じてくることがあります。
たとえば,相続人の一部を除外して遺産分割協議を行ってしまうことがあります。

本来であれば,遺産分割協議には,相続人全員が参加しなければなりません。
相続人の一部が相続放棄を行った場合には,相続放棄を行った人は最初から相続人ではなかったものとされますので,相続放棄を行った人を除いて遺産分割協議を行うことになります。
これに対し,相続放棄を行った相続人がいない場合には,たとえ相続財産は一切いらないと考えている人がいたとしても,相続人全員の参加の下,遺産分割協議を行う必要があります(名義変更や払戻に必要な印鑑証明書についても,相続人全員の印鑑証明書が必要になります)。

そして,相続人が被相続人の子のみである場合は,相続人が誰であるかが分かりやすいですが,被相続人の兄弟姉妹や甥姪が相続人に含まれる場合は,誰が相続人であるかが正確に把握できないこともあり,最初に相続人を正確に特定できなければ,後々大きな問題が生じてくることがあります。
ですから,相続人の特定に不安がある場合は,一度,相続関係を確認するため,戸籍を取得する必要があることになります。
戸籍につきましては,どのような場合であれ,被相続人の出生から死亡までの戸籍は必ず取得しなければなりませんので,多くの場合,現在戸籍だけでなく,過去の戸籍(改製原戸籍,除籍等を含む)も取得する必要があります。
こうした作業は,実際にやってみると大変ですが,後々問題が生じないようにするためには,必ずしなければならない作業であると言えます。

万一,相続人の一部を除外して遺産分割協議書を作成してしまった場合は,相続人全員の参加の下,再度,遺産分割協議をやり直す必要があります。

相続と賃貸借契約3

賃借人の相続人が存在する場合は,内縁の妻は,相続人が引き継いだ賃借権を援用することができます。

他方,賃借人の相続人が存在しない場合は,上記のようにはいかなくなります。
相続人が存在しない場合は,相続財産は最終的に国に帰属することになります。
賃借人の地位も相続財産の一種ですから,相続人が存在しなければ国に帰属するということになりそうです。

このように,相続人が存在しない場合は,判例によっても,内縁の妻の居住権は保障されないということになります。
このことは,生活の基盤を失う側にとっては,酷な結果を招きます。
そこで,このような場合に,内縁の妻の居住権を保護するため,立法による対応が行われることとなりました。

借地借家法は,次の場合に,同居人が建物賃借人の地位を引き継ぐことができるとしています。
同居人が賃借権を引き継ぐ要件は、次のとおりです。
  
① 居住の用に供する建物であること。
② 建物の賃借人が相続人なしに死亡したこと。
③ 同居者が賃借人と事実上の夫婦または養親子と同様の関係にあったこと。
  
これらの要件を満たす場合に,同居人は建物賃借人の地位そのものを引き継ぐことになります。
他方,同居人が賃借人の地位を承継することを望まない場合は,同居人は,相続人なしに死亡したことを知った時から1か月以内に,建物賃貸人に対し,賃借人の地位を承継しない旨の意思を表示する必要があります。

弁護士会等での相談を行うと,司法試験ではよく扱われるけれども,実際には,あまり出会うことのない法律問題について相談を受けることがあります。
このような場合には,六法を確認する等しつつ,過去の記憶をたどる必要があります。

相続と賃貸借契約2

賃借人の同居人であった内縁の妻を保護する理屈としては,次のようなものがあります。

建物賃借人の地位は,内縁の妻には引き継がれないですが,相続人には引き継がれることとなります。
この場合,判例は,内縁の妻は,相続人が引き継いだ借家権を援用し,建物の明渡しを拒むことができることがあるとしています(弁護士を目指して勉強する場合は,必ず学ぶことになる判例だと思います)。

注意が必要なのは,内縁の妻自身が借家権を有することになるのではなく,内縁の妻が相続人の借家権を援用することができるに過ぎないということです。
このため,相続人が賃借権を主張する場合は,内縁の妻は,建物を明け渡さざるを得なくなるのではないかという疑問が出てきます。
この点についても,判例は,相続人からの明渡請求が権利の濫用に当たるとして,内縁の妻が明渡しを拒むことができるとしました(この判例も,必ず学ぶ判例だと思います)。
このため,判例上は,相続人に引き継がれた借家権が存続する限り,内縁の妻は,建物に居住し続けることができるということになったのです。

ただし,あくまでも,内縁の妻は相続人の借家権を援用しているにすぎませんので,相続人が賃料支払義務を負うことになります。
そして,相続人が賃料を支払わず,賃貸借契約が債務不履行解除された場合には,内縁の妻は建物から退去しなければならなくなります。

このように,判例上の保護も,決して万全といえるものではありません。

相続と建物賃貸借1

最近,建物を賃借している方が亡くなった案件で,同居人の地位がどのように保護されるのかという相談を受けました。

こうした例は,司法試験(弁護士になる前段階の試験)の勉強では,何度も復習しますが,実務では,意外に法律上どのように処理されるべきかを真正面から検討することは少ないように思います。
というのも,実際には,何十年も使い続けるという考えではなく,当面の間使用するためという考えで賃貸借契約を結ぶことが多く,長年住み続けた賃借人を保護するという場面まではいかないからです。

ただ,現在であっても,戸建ての住宅を借り,何十年も住み続けているという場合もありますので,そのような場合には,建物の賃貸人(建物の所有者)と賃借人の同居人との間の問題が生じることもあったりします。

まず,同居人が賃借人の相続人である場合は,賃借人の地位が相続人に引き継がれますので,同居人は,建物を借り続けることができるということになります。
もちろん,賃借人の地位が引き継がれるわけですから,同居人は,賃料を支払う必要があります。
他方,同居人が賃料を支払い続ける間は,他に背信行為がなければ,一方的に賃貸借契約を解除されるような事態は避け得るということになります。

次に,同居人が賃借人の相続人でない場合は,問題が生じます。
同居人が賃貸人と新たに賃貸借契約を結ぶことができれば問題ないですが,できなかった場合は,同居人が賃貸人から退去を求められるのではないかという問題が生じます。
特に,同居人が賃借人の内縁の妻である場合は,法律上の保護があるかどうかを検討する必要があります。

認知症についての勉強会

認知症についての,弁護士を対象とした勉強会に参加しました。
認知症の類型(アルツハイマー型,レビー小体型等)の類型から,現在の研究の状況等まで,様々な話を伺うことができました。

1年前程前には,あと10年もすれば,認知症の症状の進行を止める新薬が開発されるという話を伺ったこともありますが,最新の治験では,新薬の開発は必ずしもうまくいっているわけではないとのことでした。
研究に関する情報は日々変化するものであり,一昔前の話が必ずしも正しいわけではないということを実感しました。

公正証書遺言の利点2

公正証書遺言の利点としては,他に,遺言の有効性が争われにくいということがあります。
公正証書遺言の場合は,公証人の関与のもとに作成されますので,手続の適正性についての信頼性が高いです。

自筆の遺言の場合でしばしば争いになるのが,残された遺言が,本当に,遺言者が作成したものなのかということです。
遺言者ではなく,相続人の一部が自分に有利な遺言を作成したのではないかとの主張が,他の相続人から出てくることがあります。
このような主張が想定される場合は,慎重に対処することが必要だと思います。

遺言の有効性が争われる場合に,遺言無効確認訴訟が起こされることがあります。
遺言無効確認訴訟では,遺言の筆跡が誰のものであるのかが審理されることとなります。
そして,遺言の筆跡が遺言者の者であることについては,遺言の有効性を主張する側に証明責任があるとされています。
このため,遺言が遺言者の筆跡によることが証明されなければ,遺言は無効であるとの判決が下されることとなるのです。

それでは,遺言が遺言者の筆跡であることを証明するためには,どのようなことを行えばよいのでしょうか。
多くの場合には,遺言者が書いた別の文書を持ってきて,その文書の筆跡と遺言書の筆跡が同一であるかどうかにつき,鑑定人に鑑定してもらうこととなります。

この場面で問題になるのが,遺言者が書いた別の文書が残っているかどうかです。
実務では,遺言者は,生前,字を書くことがあまりなかったため,遺言者が書いた別の文書が残っていないということが,想像以上に多いです。
また,当方が遺言者が書いたと主張する文書を持って行っても,相手方が,その文書は遺言者が書いたものではない,との主張を行うことも想定されます。
このような場合には,遺言者が書いた別の文書について,遺言者が作成したことを証明しなければならないという状況に陥ってしまいます。
このため,遺言者が書いた別の文書としては,文書の性質等から,遺言者自身が書いたことが確かであるというものか,遺言者が書いたということについて,相続人間で争いがないものを準備する必要があるということになります。

このように考えていくと,遺言を遺言者が作成したという点についての争いが生じることを避けるため,公証人の関与のもとに遺言を作成することは,1つの大きな利点だといとうことができると思います。

私自身,弁護士として遺言書の作成を受任する際は,遺言の有効性についての争いを避けるための手立てを打つことは必須だと考えますので,公正証書遺言を作成するか,自筆で遺言を作成し,その遺言が遺言者が作成したもので間違いないことを証拠化する(録音を残す等)か,いずれかの形をとらせていただいています。

公正証書遺言の利点1

このように,公正証書遺言を作成する場合,手数料が必要となります。
財産総額,遺言の内容次第では,手数料が思わぬ金額になることもあります。
ただ,個人的には,手数料が必要であることを考えても,公正証書遺言を作成することには大きな利点があると思います。

第一に,公正証書遺言の場合は,検認が不要となります。
自筆で作成する,いわゆる自筆証書遺言の場合は,相続開始後に,裁判所に遺言書検認審判申立を行う必要があります。
検認とは,大まかに言うと,裁判所に相続人が集まり,遺言の内容を確認することをいいます。
検認の期日では,裁判所において遺言のコピーを取り,これを検認調書として保管することとなります。
遺言書が封筒に入っている場合は,封筒を開封する手続も行います。
検認・開封の手続を怠った場合は,いわゆる罰金等の制裁がかされる可能性があります。

検認手続について注意が必要なのが,不動産の相続登記です。
遺言に基づいて不動産の名義変更を行うには,法務局に登記申請書を提出し,相続登記を行う必要があります。
このとき,法務局は,自筆の遺言の検認調書を提出しなければ,不動産の相続登記の手続を進めてくれません(松阪に限った話ではなく,どこの法務局でもそうです)。
このため,相続登記を行うためには,前もって検認手続を行っておく必要があるのです。

検認手続で大変なのが,裁判所に遺言書検認審判申立を行う際に,遺言者の相続関係が分かる戸籍を提出することを求められるということです。
相続人が子のみである場合はまだしも,兄弟姉妹が相続人になる場合は,提出しなければならない戸籍が10枚以上になることが多々あります。
相続人の本籍地が日本各地に散らばっている場合は,各地の役所で戸籍を取得する必要もあります(郵送請求するという手もありますが,手間がかかります)。
このため,戸籍の取得だけで,かなりの時間と手間がかかってしまいます。

また,検認審判申立が行われると,相続人全員に対し,何月何日に検認期日を設けますので,裁判所に出頭してくださいという通知が行われます。
このようにして,相続人全員が裁判所に出頭する機会を設け,出頭した人が集まった状態で,遺言書の開封・検認を行うことになります。
相続人間の関係が悪くない場合は問題が少ないですが,相続人間の関係が悪化している場合は,このような手続を進めることは,かなりの負担になるものと思われます(もっとも,弁護士に検認審判申立を依頼した場合は,弁護士だけが検認期日に出頭するという形をとることもできます)。

この点,公正証書遺言の場合は,検認手続を行う必要がなく,相続登記も検認調書なしで進めることができますので,手続に要する手間がかなり小さくなります。

公正証書遺言の作成手数料3

公正証書遺言は,通常,公証役場で作成することとなります。
公証役場は,全国各地に存在するものの,公証役場が存在しない市町村もあります。
松阪の場合は,中央郵便局の向かいあたりにあります。

ただ,遺言者が入院している場合,施設で生活している場合等,公証役場まで出向くのが難しいこともあります。
このような場合には,公証人に特定の場所まで出張してもらい,そこで遺言を作成するという方法をとることもできます。
ただし,公証人に出張してもらう場合は,旅費を支払う必要があります(以前,松阪で作成したときは,1から2万円程でした)。
また,出張先までのタクシー代についても,作成を依頼する側の負担となります(公証人によっては,公証役場から出張先まで,依頼人が運転する車に同乗する形をとっても構わないとすることもあるようです)。

もちろん,出張先で遺言の内容についての聞き取りを行い,その場で公正証書を作成することはできませんので,出張をお願いする場合は,事前に,遺言の文案を作成し,公証人と打合せを行っておく必要があります。
打合せを行った上で,公証人は,公正証書を公証役場で作成し,出張先に持っていくこととなるのです。
打合せが不十分で,出張先で修正点が生じた場合は,公正証書を作り直すこととなり,後日,公証人にもう1回出張していただくこととなります。
当然,旅費・交通費も二重に必要になります。
1回で手続を終わらせるためにも,綿密な打合せが必要不可欠ということになります。