遺産分割の当事者の全員が成人である場合は,円満に協議が成立するのであれば,遺産分割協議書を作成し,不動産の名義変更を行い,手続を完了させることとなります。
他方,遺産分割の当事者に未成年者が含まれる場合は,厄介な問題が生じます。
未成年者が法律上の行為を行う場合には,親権者が代わりに行うことが多いです。
たとえば,親権者は,未成年者に代わって,売買契約を行ったりします。
遺産分割についても,法律上の行為なりますので,原則として未成年者では遺産分割協議を成立させることができず,親権者が代わりに遺産分割協議を成立させることとなります。
ただ,民法は,親権者と未成年者との間で利害が対立する場合には,親権者は未成年者の代わりに法律上の行為を行うことができないと定めています。
遺産分割の当事者同士は,一方がある財産を取得すれば,他方はその財産を取得できないという関係にありますので,多かれ少なかれ,利害が対立しているものと扱われます。
いくら当事者同士が仲が良かったとしても,法律上は,利害が対立する者同士という扱いがされるわけです。
ですから,親権者と未成年者がともに相続人になる場合は,利害が対立するものと扱われ,親権者は,原則,未成年者の代わりに遺産分割協議を成立させることができないということになるのです。
たとえば,夫が亡くなり,妻と未成年の子が相続人となっている場合には,このような問題が起きます。
このように,親権者と未成年者との間で利害が対立する場合には,未成年者のために特別代理人を選任し,特別代理人に法律上の行為をしてもらうことになります。
特別代理人を選任するためには,裁判所で特別代理人選任審判申立をしなければなりません(なお,審判申立自体は,親権者が行うことができます。)。
選任された特別代理人は,恣意的な合意を行うことはできず,法律上妥当な内容の遺産分割を行うこととなります。
特別代理人には,弁護士が選任されることが多く,無報酬というわけにはいきませんので,報酬の負担も求められることとなります(通常は,選任審判申立時に予納)。
このように,当事者に未成年者が含まれているだけで,遺産分割の手続は厄介なものに様変わりします。
このため,弁護士として手続に関与する場合には,特別代理人を選任することなく遺産分割の手続を進めることができないかと,考えを巡らせてしまうこともあります。