相続させる遺言と遺贈する遺言2

1 不動産名義変更手続と税金の違い

相続させる遺言、包括遺贈する遺言、特定遺贈する遺言は、異なる種類の遺言であると解釈されています。

このため、不動産名義変更手続や課税される税金がまったく異なってくることがあります。

このあたりに取り扱いは、不動産名義変更手続の種類、税金の種類によって、違った定められ方をしていますので、正確に把握することは困難です。

しかも、不動産名義変更手続については、近年の法改正もあるため、古い情報を参照すると、思わぬ間違いが生じるおそれがあります。

 

ここでは、不動産の名義変更手続、課税される税金の違いについて、まとめておきたいと思います。

 

2 全体の整理

令和6年4月以降の全体的な取り扱いの違いを整理すると、以下のとおりです。

 

・ 登記を単独申請でできる、登録免許税が0・4%で済む

  相続させる遺言

  相続人に対する包括遺贈

  相続人に対する特定遺贈

 

・ 農地法3条の許可申請が不要、不動産取得税が課税されない

  相続させる遺言

  包括遺贈(相続人に対するものも、相続人以外の人に対するものも)

  相続人に対する特定遺贈

 

3 個別の説明

⑴ 登記を単独申請でできるか

令和4年時点では、登記を単独申請できるのは、相続させる遺言に限られています。

遺贈する遺言については、相続人全員の協力を得なければ、登記手続を行うことができません。ただし、遺言執行者が就任している場合は、相続人全員ではなく、遺言執行者の協力を得て登記手続を行うこととなります。

いずれにせよ、現時点では、遺贈する遺言の場合は、取得者が単独で登記申請を行うことはできず、相続人全員か遺言執行者と共同で登記申請を行う必要があります。

 

ところが、令和3年4月28日の不動産登記法改正により、令和6年4月1日以降、相続の登記が義務化されることとなりました。

上記のとおり、遺贈については、共同で登記申請を行う必要があり、手続が困難であるにもかかわらず、相続の登記が義務化され、登記が完了していないことを理由として罰則のみが科されることは不合理だと考えられました。

そこで、遺贈のうち、相続人に対するものに限り、取得者が単独での登記申請を行うことができることとなりました。

相続人に対する遺贈の登記が単独申請できるようになるのは、令和6年4月1日の改正法の施行後のことになります。

 

⑵ 登録免許税が0・4%で済むか

不動産の所有者が変更になる場合には、登記申請を行います。

登記申請を行う際には、登録免許税を納付する必要があります。

登録免許税の税率は、固定資産評価額の2%になることが多いですが、相続人に関する一定の登記では、0・4%になります。

相続させる遺言による登記、相続人に対する遺贈の登記が、登録免許税が0・4%になる場合に該当します。

 

不動産登記法の改正法の施行後は、結果として、登記を単独申請でできる場合=登録免許税が0・4%で済む場合になります。

 

⑶ 農地法3条の許可申請が不要か

農地の所有者が変更になる場合には、農地法3条により、農業委員会の許可が必要になります。

この農業委員会の許可が得られない限り、農地の所有者を変更することは基本的にはできませんが、相続に関する一定の名義変更については、農地法3条の許可が不要とされており、農業委員会の許可を得ることなく、所有者を変更することができます。

かつては、相続させる遺言による農地の取得、包括遺贈による農地の取得については、農地法3条の許可が不要とされていました。

 

ところが、平成24年に、大阪高裁が、包括遺贈と特定遺贈(特に相続人に対するもの)とで農地法3条の許可の要否を分ける合理的な理由がないとの判決を下したため、平成24年12月24日に農地法施行規則の改正がなされることとなり、同日以降、相続人に対する特定遺贈についても農地法3条の許可が不要とされることとなりました。

 

⑷ 不動産取得税が課税されないか

不動産を取得した場合には、地方税として不動産取得税が課税されます。

不動産取得税の税率は3~4%前後ですが、一定の軽減措置も設けられています。

この点、相続させる遺言による不動産の取得、包括遺贈による不動産の取得、相続人に対する特定遺贈による不動産の取得については、不動産取得税が非課税とされています。

 

このため、現在では、農地法3条の許可申請が不要な場合=不動産取得税が課税されない場合になっています。

 

弁護士として相談を受ける際にも、実際に手続を行うことが可能か、どのような税金がかかるかについては、把握しておく必要がある部分だと思います。

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