今回の相続法改正により,遺留分減殺請求権は,遺留分侵害額請求権へと名称変更され,専ら,金銭を請求する権利とされることとなりました。
改正前は,遺留分減殺請求権を行使した場合は,一旦は,権利行使した人は,相続・遺贈の対象となった個々の財産を共有することとなっていましたが,改正法では,遺留分額に相当する金銭の支払を請求することができるのみとなります。
このように,金銭の請求を行う場合は,いつを遺産の評価の基準時とするかが問題となります。
遺留分額は,おおむね,相続財産の純資産額に遺留分をかけ算することによって計算されます。
ここで問題となるのは,相続財産の純資産額を評価するのは,いつの時点が基準になるかということです。
遺留分を請求する間に,評価額がそんなに変動することがあるのかと思われる方もいるかもしれませんが,相続財産に株式が含まれている場合には,いつの時点を基準とするかによって,遺留分額は大きく変動することがしばしばあります。
特定の企業名は出しませんが,たとてば,関連企業が上場したことに伴い,株価が大きく値上がりしたことがありましたし,粉飾決算が判明したことにより,株価が大きく値下がりしたこともありました。
このように,大きく株価が騰落した企業の株式を多数持っていると,相続財産の全体額が大きく増減することも起き得ることとなるのです。
それでは,改正相続法の遺留分侵害額請求では,評価基準時はいつになるのでしょうか。
改正法では,相続財産の評価の基準時は,相続開始時点とされています。
そして,このことにより,次のような事態が生じることとなります。
相続開始後に相続財産が値上がりした場合であっても,遺留分額は,相続開始時点の評価額で固定されることとなります。したがって,相続開始後の値上がり分は,遺留分侵害額請求を受けた側の利益となることとなります。
反面,相続開始後に相続財産が値下がりした場合であっても,遺留分侵害額請求を受けた側は,相続開始時点の評価額により算定された遺留分額の金銭を支払わなければなりません。つまり,相続開始後の値下がり分は,遺留分侵害額請求を受けた側がかぶることとなってしまいます。
このように,今回の改正は,相続開始後の価格変動により,遺留分減殺請求を受けた側が得をすることもあれば,損をすることもあるという事態を招いてしまうものです。
遺留分侵害額請求を行う側については,相続開始後の価格変動に関係なく,相続開始時点の評価額に基づき,遺留分に相当する金銭の支払を受けることができます。
これに対し,遺留分侵害額請求を受けた側は,相続開始後に値上がりした場合には,有利になります。これに対し,相続開始後に値下がりした場合には,損失をすべてかぶらなければならなくなってしまいますので,死活問題になりかねません。
以上を踏まえると,法改正後は,相続財産の価格変動を見据え,リスク回避のために早期に財産を売却する等の対応を考えなければならない場面が出てくるように思います。
弁護士として相談を受けた場合には,こうした法改正によるリスクも踏まえつつ,必要な助言を行いたいところです。