先日,相続法の改正案が,衆議院の法務委員会で審議入りとなりました。
早ければ,2022年には,改正相続法が施行されることとなる見込みです。
個人的な意見としては,相続法改正案については,実務上,多大な混乱をもたらすであろう条項も含まれており,改正の可否について,慎重な審理が行われるべきであると考えています。
とはいえ,弁護士実務に携わる者としては,改正相続法の施行後を見据え,実務上,どのような変化が生じるかについて,試行錯誤を行っておくべきところです。
改正のポイントは何個かありますが,個人的に気になっている部分について,何個か紹介を行いたいと思います。
遺留分については,次のような改正が予定されています。
改正民法1044条
1 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。
現在の民法では,遺留分額算定の基礎となる財産には,相続人に対する贈与のうち,いわゆる特別受益に当たるものを加算して計算するとの解釈がなされています。
このため,特定の相続人が,遺産のほとんどを取得し,かつ,生前にも多額の贈与を受けていた場合には,遺産の額に生前贈与された財産を加算した額について,遺留分減殺請求を行うことができます。
これに対して,上記の改正案では,相続人に対する贈与のうち,いわゆる特別受益に当たるものについては,相続開始前10年間にされたものに限り,遺留分算定の基礎となります。
裏返せば,相続開始前10年以上前に贈与された財産については,遺留分の算定に当たっては,考慮されないこととなってしまいます。
こうした改正により,今後,早期に生前贈与を行うことで,贈与を受けていない相続人からの遺留分減殺請求が行いにくくなることが予想されます。
なぜなら,早期に生前贈与を行うことにより,相続開始前10年以上前になされた贈与に該当する可能性が高まり,遺留分の算定に当たって考慮されない贈与となる可能性が高くなるからです。
この点を踏まえると,まとまった財産を特定の後継者に引き継がせることを希望する場合には,「早期に生前贈与を行うことにより,将来,遺留分減殺請求の対象となる財産を,できるだけ少なくする」といった相続対策がとられる可能性が高くなるように思います。
なお,こうした相続対策については,改正民法1044条2項が,「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたとき」も遺留分算定の基礎に含めるとの規定を行っているため,歯止めの役割を果たすのではないかという意見もあるかもしれません。
しかし,改正民法1044条2項の「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をした」ことについては,実際には,証明がかなり困難であり,現行法の裁判例も,条項の適用範囲を限定しています。
このため,改正民法1044条2項が歯止めの役割を果たす場面は,ほとんどないのではないかと思います。