交通事故により被相続人が亡くなられた場合,相続人が,加害者側(保険会社へ請求することもありますので,「加害者側」と言います。)に対し,損害賠償請求を行うことがあり得ます。
法律上は,被相続人が加害者側に対し,損害賠償請求権を持っており,この損害賠償請求権を相続人が相続することとなります。
ところで,相続の場面では,特定の相続人が被相続人から生前贈与を受けている場合,生前贈与が特別受益と扱われるため,その分,生前贈与を受けた相続人の相続分が減少することとなります(ただし,持戻しの免除があったとされる場合は,この限りではありません)。
ここで問題となるのが,交通事故(死亡事故)の損害賠償金についても,生前贈与が考慮され,被相続人から生前贈与を受けた相続人の取得分が減少することとなるかどうかです。
平成28年12月の最高裁の決定は,預貯金が遺産分割の対象となり,生前贈与が考慮される,つまり,被相続人から生前贈与を受けた相続人の取得分が減少することとなるという結論を出しました。
このため,交通事故(死亡事故)の損害賠償金についても,預貯金と同様,生前贈与が考慮されるかどうかが問題となるところです。
この点について,平成28年12月の最高裁決定の評釈は,おおむね,交通事故(死亡事故)の損害賠償金は,遺産分割の対象にならず,生前贈与が考慮されないとしています。
実質的な理由としては,交通事故(死亡事故)の損害賠償金の請求について,生前贈与が考慮されることとなると,生前贈与の有無についての判断がなされない限り,どの相続人がどれだけの請求を行うことができるかを確定することができず,紛争が長期化,複雑化するから,ということが挙げられています。
以上を踏まえると,特定の相続人に対する被相続人からの生前贈与がある場合は,交通事故(死亡事故)の損害賠償金は,法定相続分どおりにしか請求できず,生前贈与については,交通事故(死亡事故)の損害賠償金以外の遺産の分割の場面で考慮されることとなりそうです。
そして,交通事故(死亡事故)の損害賠償金以外に遺産が存在しない場合は,事実上,生前贈与が考慮される場面が存在しなくなるということになりそうです。
この点について,公平性の見地からいかがなものかという意見もあり得るところですが,紛争の長期化,複雑化を避けるべきであるという理由からか,これまでどおり,法定相続分での請求が妥当であるという意見の方が強いようです。