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限定承認をする場合の注意点1

相続の仕方については、3種類の方法があるとの話がなされることがあります。
1つ目は、単純承認と呼ばれる方法であり、相続財産も債務も、包括的に引き継ぐ方法になります。
2つ目は、相続放棄と呼ばれる方法であり、相続財産も債務も、一切引き継がない方法になります。
3つ目は、限定承認と呼ばれる方法であり、相続財産を換価し、債務の返済を行うこととなりますが、相続財産の方が多額である場合は、残った財産を引き継ぐことができ、債務の方が多額である場合は、残った債務は返済しなくても済む方法です。
相続放棄か限定承認を選択する場合は、相続が開始したこと(多くの場合は、被相続人が亡くなったこと)を知ってから3か月以内に、家庭裁判所で申述を行う必要があります。

限定承認については、端的には、差し引きでプラスだとプラス分を引き継ぐことができ、差し引きでマイナスだとマイナス分を引き継がなくて済みます。
このように、利点のありそうな制度であるため、限定承認を希望される方はしばしばいらっしゃいます。
ただ、限定承認については、いくつかの注意点があります。
このような注意点をクリアできない場合は、限定承認の手続を取ったことにより、想定外の経済的負担を負ったり、解決困難な問題を抱えることとなったりするおそれがあります。
このため、案件によっては、そもそも、限定承認を用いるべきではないと判断すべき場合があります。
ここでは、この点について説明するため、限定承認を選択する場合の注意点を説明したいと思います。

1つ目の注意点は、所得税の申告、納付の必要が生じる可能性があるということです。
相続財産の中に、売却しなければ現金化できない財産がある場合は、所得税の申告、納付の検討を行う必要があります。
※ 正確には、取得時と比較して、含み益が生じている財産が存在する場合には、所得税が発生するとの表現をすべきではあります。

この点については、他のサイトでも、限定承認を利用する際の注意点として、説明がなされていることが多いです。
もっとも、税金関係をよく理解していないサイトでは、限定承認の手続を利用すると、必ず、所得税が発生するかのような記載がなされていることがあります。
より正確には、相続財産の中に、売却しなければ現金化できない財産が存在する場合は、所得税が発生する可能性があるという話になります。
たとえば、相続財産が現金や預貯金だけでしたら、売却するまでもなく現金化できますから、所得税が問題になることはありません。
他方、相続財産に不動産が含まれている場合は、不動産については売却しなければ現金化できませんので、譲渡所得税が発生する可能性があることとなります。
他にも、相続財産に株式や投資信託が含まれている場合も、株式や有価証券は売却しなければ現金化することができないですので、所得税が発生する可能性があることとなります。
このため、相続財産に不動産や株式、投資信託が含まれている場合は、所得税の申告、納付に注意しながら、限定承認の手続を進めるべきであることとなります。

所得税が発生する場合には、限定承認の手続中に、所得税の申告書を提出し、納付も行うべきこととなります。
この場合の所得税の申告は、準確定申告になりますので、相続が開始したこと(多くの場合は被相続人が亡くなったこと)を知ってから4か月後が申告期限になります。
4か月の申告期限が過ぎてから準確定申告を行うと、無申告加算税(自主申告の場合は本税の5%)と延滞税(令和5年時点では本税に対して年利2.4%か8.7%)を追加で納付する必要が生じることとなります。
このため、できれば4か月の申告期限までに、所得税の申告書を提出した方が良いということになります。案件によっては、4か月の申告期限までに申告書を提出するのが難しいこともありますが、その場合であっても速やかに、所得税の申告を行うのが望ましいこととなります。
申告をしないまま放置してしまうと、税務署によって課税処分がなされることとなりますが、この場合は、無申告加算税が本税の15%から20%まで増額されてしまいます。また、納付の時期も遅れるでしょうから、延滞税も、納付までの期間に応じて増額されることとなってしまいます。

所得税の納付は、相続財産の中から行うこととなります。
所得税等の税金、銀行や貸金業者の債務に優先して、納付を行うべきこととなっています。
このことは、裏返すと、相続財産が存在するのであれば、その相続財産から優先して納付することが義務付けられるということになります。
よく、限定承認でしてしまうミス(税金に詳しくない弁護士もしばしばしてしまうミスです)は、相続財産から所得税を納付すべきであったにもかかわらず、これをせずに銀行や貸金業者への配当弁済をしてしまうことです。
この場合は、本来納付すべきであった所得税が納付されていないと扱われますので、限定承認者が、一旦は自腹を切ってでも、所得税を納付しなければならない状況に追い込まれることとなります。

投資信託の評価方法(上場投資信託ではない投資信託の場合)

遺産分割や相続税申告の場面では、投資信託の評価額を算定すべき場合があります。

弁護士として活動する場合も、税理士として活動する場合も、投資信託の評価を行うべき場面は、しばしばあります。

前提として、投資信託にはどのような種類があるのでしょうか?

投資信託は、大別すると、上場投資信託と上場投資信託ではない投資信託に分かれます。

上場投資信託は、上場している株式と同様、取引日にはリアルタイムで値動きし、売買が行われます。

これに対し、上場投資信託ではない投資信託は、リアルタイムで値動きすることはなく、取引日の決まった時間に基準価額が明らかにされるだけとなっています。

上場投資信託ではない投資信託の売買は、この基準価額に基づいて行われます。

大多数の投資信託は、上場されていませんので、後者に該当します。

上場投資信託ではない投資信託の評価方法は,以下の計算式によって評価されます。

被相続人が亡くなった日の基準価額-亡くなられた日に解約した場合の源泉所得税等-信託財産留保額、解約手数料

上記の計算を行うためには、まずは、投資信託の基準価額を調べる必要があります。

たとえば、投信総合検索ライブラリーのホームページ(https://toushin-lib.fwg.ne.jp/FdsWeb/FDST000000)で該当する銘柄を検索すると、基準価額を調べることができます。

このホームページの、「基準価額及び純資産総額の推移」の表により、被相続人が亡くなった日の基準価額を確認することができます。

基準価額は、1万口当たりの金額が記載されています。

たとえば、投資信託の口数が323万6589口であり、基準価額が1万0392円になっていた場合は、1万0392円×323万6589口/1万口=336万3463円であるとの計算を行うこととなります。

なお、被相続人が亡くなった日が土日祝日の場合は、被相続人が亡くなった日よりも前の、最も近い取引日の基準価額を用います。

後の日の基準価額ではなく、必ず、被相続人が亡くなった日よりも前の基準価額を用います。

次に、被相続人が亡くなられた日に解約した場合の源泉所得税等を計算します。

源泉所得税等は、被相続人が亡くなった日の基準価額と、取得価額との差額に、20.315%を乗じることで計算できます(厳密には、15.315%(所得税率)を乗じて切り捨てした額と、5%(住民税率)を乗じて切り捨てした額の合計を計算します)。

取得価額については、証券会社が発行する取引報告書に記載されていることもありますが、証券会社に確認する必要があることも多いです。

最後に、信託財産留保額、解約手数料を計算します。

たとえば、先述の投信総合検索ライブラリーのホームページの、「目論見書」に、信託財産留保額、解約手数料の計算方法が記載されています。

以上の計算結果に基づき、基準価額から、源泉所得税等と信託財産留保額、解約手数料を差し引くことにより、上場投資信託ではない投資信託の評価額を算定することができます。

給与所得者が亡くなられたときに支給される金銭と相続税

1 相続税の課税対象になるかどうかについて、個別の検討が必要
給与所得者が亡くなったときには、会社や雇用主から様々な金銭が支給されます。
例としては、未支給の給与、死亡退職金、弔慰金、花輪代、葬祭料等があります。
未支給の給与は、生前の勤務期間について支払われるはずだった給与です。
死亡退職金は、本来、退職の際に支払われるはずだった退職金を、死亡を理由として支払うものになります。
弔慰金は、遺族を慰謝するために支払われる金銭であり、花輪代、葬祭料は、葬儀費用等を填補するために支払われる金銭です。

このように、それぞれの金銭が支払われる目的は異なっており、支給がなされるかどうかもそれぞれで判断されます。
死亡退職金、弔慰金、花輪代、葬祭料等は、会社や雇用主が定める規程に従って支給されます。

これらの金銭については、相続税の課税対象になるものもあれば、課税対象にならないものもあり、個別の検討が必要になってきます。

2 未支給の給与
未支給の給与は、本来、亡くなった人が受け取るべきだったものになりますので、相続財産になります。
このため、通常の相続財産と同様、相続税の課税対象になります。

3 死亡退職金
死亡退職金は、亡くなった人に対して支払われるものを代わりに相続人が支払を受けるものではなく、遺族個人に対して支払われるものです。
このため、本来の相続財産ではありません。
しかし、相続の発生により支払われる金銭ではありますので、みなし相続財産として,相続税の課税対象とされています。

死亡退職金については、会社や雇用主から支給されることが多いですが、信託銀行から入金されることもあります。
これは、死亡退職金について、信託銀行に運用委託していることがあるためです。

死亡退職金については,非課税限度額が存在しており、非課税限度額を超える部分に限り、相続税が課税されます。
非課税限度額は、以下のとおりです。

500万円×法定相続人数

法定相続人数については、基礎控除額と同じ考え方を用いることとなっています。
したがって、相続放棄をした相続人がいたとしても、相続放棄がなかったものとして、法定相続人数を計算します。
また、養子がいる場合には、算入できる養子の人数は、他に実子がいないときは2名まで、他に実子がいるときは1名までに限定されます。

4 弔慰金、花輪代、葬祭料
弔慰金、花輪代、葬祭料については、一定の金額を超える場合には、死亡退職金とみなされ、死亡退職金に合算して、みなし相続財産として課税されることとなります。

弔慰金、花輪代、葬祭料が死亡退職金とみなされるのは、以下の金額を超える部分です。

・ 業務上の死亡の場合→3年分の普通給与
・ 業務上の死亡でない場合→半年分の普通給与

上記の金額を超え、死亡退職金とみなされた場合には、さらに、先に説明した500万円×法定相続人数を超える金額に限って,相続税が課税されます。

5 共済組合から支払われる弔慰金、埋葬料
亡くなられた方が国家公務員、地方公務員、学校の先生であった場合、共済組合から、弔慰金、埋葬料といった金銭が支給されることがあります。
具体的には,以下のとおりです。
・ 国家公務員共済組合法に規定する弔慰金、埋葬料
・ 地方公務員等共済組合法に規定する弔慰金、埋葬料
・ 私立学校教職員共済法に規定する弔慰金、埋葬料

共済組合から支給される弔慰金、埋葬料については、相続税は課税されません。

詳しくは相続に詳しい弁護士・税理士にお尋ねください。

贈与加算についての改正②

令和6年以降も、相続税の贈与加算の対象から外れてくる贈与の2つ目は、以下のとおりです。

② 相続人に対する相続時精算課税制度を用いた贈与

相続人に対する贈与であっても、相続時精算課税制度を用いて贈与を行うのであれば、年間110万円までは、過去7年間になされた贈与であってもら相続税の課税価格に含めなくても良いこととなっています。

相続時精算課税制度は、生前贈与について、一定の届出を行うことにより、ある程度の金額までは、贈与税が課税されず、代わりに相続税の課税がなされることとなる制度です。加えて、先述の年間110万円までは、過去7年間になされた贈与であっても、相続税の課税もなされないこととなり、税金の負担なく、財産を子の世代に移転することができます。

生前贈与により相続財産が減少することを念頭に置いて、相続税対策を行う場合も、相続人となる予定の人に対する贈与については、相続税精算課税制度を用いて贈与すれば、過去7年間になされた贈与を相続税の課税対象から外すことができることとなります。

このため、令和6年以降は、相続人に対する贈与は、相続時精算課税制度を用いて行った方が良いと考えられます。

相続時精算課税制度を利用する場合は、贈与を受けた年の翌年の2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税選択届出書を税務署に提出します。

提出先の税務署は、贈与を受ける人の住所地を管轄する税務署です。

贈与を受けた年の翌年の3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出する必要があり、この期限を過ぎてしまうと、相続時精算課税制度を利用することはできませんので、注意が必要です。

一度、相続時精算課税選択届出書を提出すると、翌年以降は、改めて届出書を提出しなくても、相続時精算課税制度を用いて贈与を行うことができます。

なお、年間110万円までの贈与であれば、贈与税の申告を行わなくても、相続時精算課税の年間110万円の非課税枠を利用することができます(他方、累計2500万円の非課税枠については、申告が必要となっています)。

ご相談をご希望の方は、弁護士法人心へお気軽にお問い合わせください。

贈与加算についての改正➀

相続税は、相続時点で存在した財産だけでなく、生前贈与済みの財産にも課税されます。

かつては、相続人に対し、被相続人が亡くなった日の3年前から、被相続人が亡くなった日までの間に贈与された財産については、相続税の課税価格に含めることとされていました、

この点が、今年(令和6年)から法改正されることとなり、相続人に対し、被相続人が亡くなった日の7年前から、被相続人が亡くなった日までの間に贈与された財産が、相続税の課税価格に含まれることとなりました。

被相続人が亡くなった日の7年前から、被相続人が亡くなった日の3年前になされた贈与については、合計で100万円の非課税枠(毎年100万円ではなく、4年間の合計100万円までが非課税となります)があるものの、非課税枠を超える金額については、7年も前に遡り、贈与されたはずの財産に相続税が課税されることとなります。

よく、贈与を行うと、相続財産を減らすことができ、相続税を減額できるという話がなされることがあります。

確かに、こうした「相続税対策」が功を奏することもありますが、実際には、贈与された財産についても、かなりの部分まで、相続税の課税対象に含まれることとなっていますので、この点を意識しないと、対策をしたはずなのに何の意味もなかったという事態を招きかねません。

それでは、どのような贈与であれば、相続税の課税対象から外れてくるのでしょうか?

令和6年以降の法改正を踏まえると、以下の贈与であれば、相続税の課税対象から外れてくることとなります。

⑴ 相続人以外に対する贈与

制度上は、相続人に対して過去7年間になされた贈与が、相続税の課税価格に含まれることとなっています。

裏返せば、相続人以外に対して贈与すれば、相続税の課税価格には含まれないこととなります。

たとえば、相続人の配偶者や相続人の子に対し、贈与を行えば、過去7年間に贈与されたものであっても、相続税の課税価格には含まれないこととなります。

ただし、相続人の配偶者や相続人の子が、被相続人と養子縁組を行っている場合は、これらの人も相続人に含まれてしまいますので、7年間遡って贈与財産に対する相続税の課税がなされることとなってしまいます。

これらの人に年間110万円以下で贈与を行えば、連年贈与との認定がなされない限り、贈与税も課税されません。

ただ、一般的な贈与でも注意すべきことではありますが、こうした贈与を行う場合には、特に注意を行うべき点があります。

それは、相続人の配偶者や相続人の子に対する贈与が実態を伴っているものであるかどうかです。

たとえば、相続人の子名義の口座に毎年入金しているものの、相続人の子は入金の事実すら知らないといった場合は、贈与の実態がないと判断される可能性があります。

他にも、相続人の子が三重県には住んでいないのに、三重県にしか支店が存在しない銀行に入金されているような場合は、相続人の子が自由に出入金を行うことが困難である可能性が高いため、相続人の子に対する贈与の実態がないと判断されるおそれがあります。

また、実態としては、相続人の子に対する贈与ではなく、相続人に対する贈与であると判断される恐れもあります。

このような判断がなされるリスクを避けるためには、①きちんと、被相続人と相続人の配偶者や相続人の子との合意に基づき、贈与を行う(贈与契約者を作成する等)、②贈与された財産は、相続人の配偶者や相続人の子が個人的な使途に利用している、③贈与された預貯金の通帳やカード、証書については、相続人の子や相続人の配偶者自身が管理している等、相続人の子や相続人の配偶者に対する贈与の実態を備えている必要があるでしょう。

詳しくは相続税に詳しい弁護士、税理士にご相談ください。

消滅時効についての法改正2

2020年4月施行の改正民法により、消滅時効の期間が10年から5年に短縮されることによって発生する「2025年4月問題」については、少し奇妙な現象が発生します。

たとえば、貸主が借主に対し、期限の定めなく、次のとおり金銭を貸し渡した場合を考えたいと思います。

➀ 2018年5月 100万円を貸付

② 2019年5月 100万円を貸付

③ 2020年5月 100万円を貸付

④ 2021年5月 100万円を貸付

⑤ 2022年5月 100万円を貸付

この貸付は、個人間の独立した貸付(一連性がない貸付)であり、1個1個の貸付について、消滅時効が完成するとします。

➀、②の貸付については、2020年4月よりも前の貸付であり、改正前の民法が適用されます。

このため、貸付を行った日から10年が経過すると、消滅時効が完成することとなります。

③、④、⑤の貸付については、2020年4月以降の貸付であり、改正後の民法が適用されます。

規定上は、権利を行使できることを知った時から5年または権利を行使できる時から10年で消滅時効が完成することとなりますが、通常は貸付を行った時点で権利を行使できることを知っていたと考えられますので、貸付を行った日から5年が経過すると、消滅時効が完成することとなります。

これを踏まえて、それぞれの貸付の消滅時効の完成日を書き加えると、以下のとおりになります。

➀ 2018年5月 100万円を貸付 → 2028年5月に消滅時効が完成

② 2019年5月 100万円を貸付 → 2029年5月に消滅時効が完成

③ 2020年5月 100万円を貸付 → 2025年5月に消滅時効が完成

④ 2021年5月 100万円を貸付 → 2026年5月に消滅時効が完成

⑤ 2022年5月 100万円を貸付 → 2027年5月に消滅時効が完成

今が2025年3月でしたら、➀から⑤は、いずれも消滅時効が完成していないこととなります。

それでは、今が2025年6月でしたら、どうでしょうか?

➀、②については、消滅時効が完成していないこととなります。

③については、消滅時効が完成していることとなります。

④、⑤については、消滅時効が完成していないこととなります。

このように、真ん中の時期になされた貸付だけが消滅時効が完成し、返済しなくても良いこととなり、他の貸付については消滅時効が完成しないため、返済しなければならないという現象が発生することとなりそうです。

さらに時間が経過し、2027年6月になったら、どうでしょうか?

①、②については、消滅時効が完成していないこととなります。

③、④、⑤については、消滅時効が完成していることとなります。

このように、古い時期になされた貸付については消滅時効が完成せず、返済しなければならないこととなり、新しい時期になされた貸付については消滅時効が完成し、返済しなくても良いこととなるという、逆転現象が発生することとなりそうです。

このように、2025年4月からしばらくの間(5年間)は、必ずしも古い権利から順に消滅時効が完成するとは限らないこととなるため、時効が成立しているかどうかの判断を慎重に行う必要がありそうです。

時効の問題は、判断を誤ると、弁護士として死活問題になりかねませんので、2025年4月以降は、より一層の注意を払いたいと思います。

消滅時効についての法改正1

貸金返還請求権や売買代金返還請求権、不当利得返還請求権等、誰かに対して金銭等を請求する権利を有しているとします。

こうした権利は、長期間行使しなかった場合には、消滅時効が完成してしまいます。

消滅時効が完成すると、債務者が時効を援用するとの意思表示を行うと、法律上、債務者に対して請求することができなくなってしまいます。

それでは、どれくらいの期間が経過すると、消滅時効が完成し、債務者に対する請求ができなくなるのでしょうか?

かつての民法では、債権については、基本的には、10年で消滅時効が完成すると定めていました。

ところが、近時、民法が改正され、消滅時効の期間に関する定めも変更されることとなりました。

2020年4月以降については、債権の消滅時効は、権利を行使できることを知った時から5年または権利を行使できる時から10年で完成することとなりました。

一般的な貸金ですと、期限の定めがなければ、貸付を行った日から、消滅時効の期間がカウントされることとなります。

改正前は、貸付を行った日から10年が経過すると、消滅時効が完成することとなっていました。

他方、改正後は、貸付を行った時点で権利を行使できることを知っていたと考えられますので、貸付を行った日から5年が経過すると、消滅時効が完成することとなります。

このように、改正前は、10年で消滅時効が完成するとの考えで良かったのですが、改正後は、5年で消滅時効が完成することとなり、時効期間が完全に切り替わってしまうこととなります。

2020年4月が改正法の施行日ですので、その5年後である2025年4月には、5年の消滅時効が完成し始めることとなります。

このため、2025年4月以降については、5年の消滅時効が完成し始めるのではないかということについて、注意をする必要が出てきます。

消滅時効が完成してしまうと、請求できたはずの権利がまったく請求できなくなることとなってしまいますので、弁護士としては、この「2025年4月問題」に細心の注意を払う必要があります。

遺留分に関する法改正2

3 税金関係について

税金関係についても、変更が生じたと思われる点があります。

次のような事例を考えたいと思います。

相続人は、A、Bである(法定相続分各2分の1)。

遺産は、1000万円の不動産(Aが使用)、3000万円のその他の財産である。

Bに対し、すべての財産を相続させる旨の遺言が存在した。

AがBに対し、遺留分(4分の1)に基づく請求を行った。

改正前については、遺留分減殺請求権を行使することにより、遺産である不動産については、遺留分権利者が相続開始時点より持分を有していたこととなりました。

このため、Aが遺留分相当額の財産として1000万円の不動産を取得することは、共有物分割により現物取得をしたと評価されることとなり、譲渡所得税の課税対象にはなりませんでした。

※ 旧所得税基本通達33-1の6(現33-1の7)

持分に応ずる現物分割があった時には、その分割による土地の譲渡はなかったものとして取り扱う。

ところが、改正後については、遺留分権利者は、遺産である不動産については、何らの権利も有しておらず、遺留分相当額の金銭の支払を請求することができるのみとなります。

このため、Bは、Aに対し、遺留分に相当する金銭の支払を行う義務を負っていることとなります。

Bが、Aに対し、上記金銭の支払に代えて1000万円の不動産を譲渡することは、不動産をもって金銭の支払を免れたと評価されることとなりますので、Bには、譲渡所得税の課税がなされることとなります。

※ 所得税基本通達33-1の6

金銭の支払に代えて、その債務の全部又は一部の履行として資産の移転があったときは、その履行をした者は、原則として、その履行があった時においてその履行により消滅した債務の額に相当する価額により当該資産を譲渡したこととなる。

譲渡所得の課税となると、取得費に関する資料が残っているかどうかにもよりますが、所得税で15.315%、住民税で5%の課税がなされます。

不動産評価額の合計20,315%の負担となりますので、かなりの金額の税負担となる可能性があります。

このように、法改正後は、すべてを特定の相続人に相続させる旨の遺言が作成されている場合には、遺留分義務者に対し、想定外の課税がなされるリスクが生じる場面が出てきています。

このような問題を回避するためにも、遺言を作成し直す必要が生じる例も出てきています。

弁護士等が関与している場合は、法改正があった際には、改正法を踏まえて対応することも可能であると思いますが、弁護士等が関与していない場合には、こうした対応を行うことができず、不都合が生じてしまうケースも存在します。

一般国民の感覚としては、法改正にあたっては、問題を最小化するための手当てについて検討を尽くすべきであるとの考え方もあり得るところですが(上記の課税上の問題も、改正試案の段階ですでに指摘がなされていた問題でしたが、特段の手当てがなされることなく、改正がなされるに至っています)、現実にはそれが期待できないことも多いです。

法改正について気になるところがあれば、弁護士等にご相談いただき、個別に対応策を練るようにした方が良いのではないかと思います。

遺留分に関する法改正1

1 はじめに

遺留分制度については、2018年7月以降、改正法が施行され、制度が大きく変更されることとなりました。

改正後は、遺留分は、専ら、金銭での請求を行うことができることとされました。

改正前は、遺留分の請求を行うと、第一次的には、相続財産を共有している状況となり、遺留分を請求された側が金銭での価額弁償を希望する場合には、金銭の支払により解決することができると定められていましたが、改正後は、法的には、金銭での請求のみができることとされました。

これに伴い、請求権の呼び名も、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更されることとなりました。

こうした改正に伴い、遺留分について、何点か、改正前と比較して、取り扱いの変更が生じた部分があります。

改正法が施行されてから時間が経ちましたが、弁護士としては、改正された部分そのものだけでなく、改正に伴って生じる派生的な影響についても注意したいところです。

ここでは、変更が生じたと思われる点について、まとめたいと思います。

2 賃料の取り扱い

相続財産である不動産の中に、賃料が発生する不動産が含まれていることがあります。

改正前は、遺留分減殺請求権を行使することにより、遺産である不動産については、遺留分権利者が相続開始時点より持分を有していたこととなっていました。

ただし、賃料については、遺留分権利者が分配を請求することができるのは、遺留分減殺請求があった日以後の果実に限定されていました(旧民法1036条)。

このため、遺留分減殺請求がなされて以降に発生した賃料については、分配を請求することができた。

ところが、改正後は、遺留分権利者は、遺産である不動産については、何らの権利も有しておらず、遺留分相当額の金銭の支払を請求することができるのみとなりました。

このため、遺留分権利者は、遺産である不動産から発生する賃料については、分配を請求することができないこととなりました。

遺産分割の成立に伴う修正申告・更正の請求の要否②

このように、遺産分割の成立にあたっては、各相続人が修正申告・更正の請求を行い、税務署(国)を介して、相続税の精算がなされることとなります。

もっとも、これとは異なる方法で、相続税の精算がなされることもあります。

それは、税務署(国)を介さずに、相続人間で、直接、相続税の差分の調整金を精算する方法です。

遺産分割の成立に伴い、遺産分割により取得財産の割合が変更になった場合には、相続分よりも多めに財産を取得した相続人が追加で納付する相続税の総額は、相続分よりも少ない財産を取得した相続人が還付を受ける相続税の総額と同じ金額になるはずです(ただし、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減の制度を用いて相続税の総額が減額される場合は別です)。

このため、税務署(国)を介して精算を行わなくても、相続人間で直接、相続税の差分を精算する方法を用いる方法を用いる方が早いのではないかと考えられるところではあります。

実務では、このように、相続人間で直接、相続税の差分の精算金を支払う方法を用いることもあります。

弁護士として交渉した際にも、このような精算を行ったことは、何度かあります。

ただ、このような精算を行う際には、相続税の差分の計算について、相互の信頼に基づき合意ができることが前提となります。

差分の計算結果について、合意ができない場合は、このような精算方法を用いることはできないです。

極端な例だと、相続分よりも多めの財産を受け取ったある相続人Aが、相続人よりも少ない財産を受け取った相続人Bから、相続税の差分の精算金の支払を受けたものの、その後、相続人Aは、秘かに、小規模宅地等の特例等の適用を受ける前提で更正の請求を行い、税務署から相続税の還付を受けてしまうといった行動を取ることもできないわけではないです。

相続人間での調整金の支払により精算を行う場合には、相続人間で一定の信頼関係が必要であるとは思います。